買い物に付き合え。と言われ勝手に待ち合わせ場所と時間を指定を言い放ちそのままこちらの返事を聞くことも
無く去っていく背中を見ながらわぁあ今週末はデートだ、と思った。どうしよ俺様ちょっとドキドキしてきたぜ。
こんな不躾な物言いをするのはあの片倉小十郎だと思うだろうが、実はもう一人佐助には何を言ってもいいと思っている人間がいた。
それは佐助の隣のクラスのかすがだった。
○◎たぶん初耳◎○
佐助にはかすがに誘われた目的の見当は付いていた。
大方、彼女が目下大恋愛中である本校教師の上杉謙信へのプレゼントを買うのが目的だろう。
かすがとは何となく腐れ縁で今までずっと付き合いが続いている。かすがは元々の性格のせいかはたまた佐助への
慣れのためかつい佐助に対して何かと押し付けるような物言いになってしまうようだ。佐助もそれをわかっている
ので先ほどのような言われ方をしても今更なんとも思わない。寧ろ、素直じゃないな可愛いな。と思ってしまう。
佐助は基本的にかすがに何でも甘いのだ。
「珍しく話し掛けてきたかと思えばこれですか」
なんか片倉さんに似てるな。とぴんと背筋を伸ばして歩くかすがの後ろ姿を見ながら佐助はぼんやり思った。
(いやいや!なんでそこでこの人の名前?!)
思った直後に佐助は己の考えたことに思わずツッコミを入れてしまった。
最近すっかり佐助の家に入り浸りな片倉に最早なんの疑問を抱かなくなってきているほど佐助は片倉のいる生活が
当たり前になりだしていた。少し前に片倉が佐助の家に押しかけたのをきっかけにそれに味を占めた片倉は頻繁に
佐助の家に泊まりに来るようになったのだ。原因は片倉の自宅に同居人の政宗の友達(主に幸村、元親、慶次)が集ま
り防音設備の充実した高級マンションだという事に胡座をかいてはしゃぎまくっているのせいだ。 それよりも少し
前までは佐助の家に集まっていたのだがある時羽目を外しすぎたときに、たまたま立ち寄った信玄に見つかりこっぴどく
怒られてしまいそれを期に、信玄を尊敬してやまない幸村がもう佐助の家では遊ばない!と言い出し
それから政宗の家に集まり出したのだ。
そしてその結果あまりのうるささに根を上げた片倉が佐助の家に避難してくるといった形になった。自分が片倉のお守の
最中に他の連中は好きにはしゃいでるという事実を知ったときに佐助はハブられてると半ば本気で傷付いたのはいうまでもない。
それでも片倉を家に置いて佐助も政宗たちに加わるなどできるはずも無く佐助はハンカチをかみしめつつ片倉の相手をしている。
やばぁい。佐助はぼんやりと何処かを見詰めながら呟いた。佐助の頭の中の片倉小十郎が増えすぎている。
週末なんて常識としてどうかと思うが佐助の家に来る途中買ったアルコール類を手土産に片倉がやって来てそのまま
だらだらすることが常だ。 だらだらレンタルした映画をみたり話をしたり、偶に酔ってみたり、そのまま雑魚寝だったり
と何だかんだで上手くやっているのだ。 それに政宗達には絶対に言えないが、最近じゃ片倉が泊まるときに何だかもう色々
面倒で同じ布団で寝る事の方が多いなんて。
そこまで至って佐助は今週末にかすがと約束したはいいがそれを片倉に事前に言っておかねばなるまいという事に気がついた。
「で?」
「いやだから、週末こっち来るの?」
「それは俺が決める事じゃないだろうが」
「まぁそうなんだけどさ」
そう言いながら佐助の部屋で黙々と採点をしながら片倉言った。
それはそうだ。片倉がどうのというより政宗達があっちに集まるのかどうかだ。
「それがどうした」
「え、あーいや。あのね・・・んー」
「気持ちの悪いやつだな」
いつまでも歯切れの悪い佐助に片倉は珍しく仕事の手をとめ佐助の方に顔を向けた。
それを佐助は珍しいと感じながら頬杖を付いている手で顔をぽりぽりと掻きつつ週末俺出かけるんだ、と言った。
「ほぉ」
政宗さま達とか、と片倉は聞くと佐助は首を横に振った。そしてなんとなく佐助は片倉から目を逸らす。 別にかすがと
出かけるのが後ろめたい訳じゃない。大体片倉とは別にどうという関係でもないのだ後ろめたさを感じること自体が不自然だ。
その佐助の様子を一頻り眺めていた片倉は不意にふぅん、と言い。普段滅多に見せない人の悪い笑みを浮かべた。
「女だろ」
「・・・いや、そうだけどそんなんじゃなんだぜ?」
一々狼狽えんなよ。片倉は佐助の様子に笑いながら行ってくればいい。と言った。
「え。でもその日政宗達家にいたらどうすんだよ。うるさいでしょ」
「お前が行くのは昼の話だろう。政宗さま達も流石に昼間からは家にいまい」
「まぁ。そりゃそうだろうけど」
「なに気兼ねしてやがる。それに土曜の昼間は俺はまだ学校だ」
「あ・・・」
そうか、と佐助は少し安心したような表情浮かべた。何もここまで佐助が片倉に気を使ってやることなど無いのだが
自分だけ楽しんでるというのがなんと言うか無性に腑に落ちない気がした。佐助はじゃあ気にすることないね。
と言うと蟠りが取れたのか、かすがとお出かけな事実とよく考えれば久しぶりに目の前の男と一日顔を合さなくていい
という事実に段々と期待感が湧いてきた。明らかに嬉しそうにしている佐助のことをもう採点を止めてしまったのか
左手にもっていたペンを置いた片倉はまじまじと見た。
「やけに嬉しそうじゃねぇか」
「ふふ。まぁーね」
今にも歌でも歌い出しそうな佐助を片倉は若干呆れながらもそりゃ良かったな、と言ってやる。
佐助は最近あまり楽しそうな顔をしない。でも片倉はまさかそれが自分の所為だとは気付いていないので湿ったい野郎だな。
くらいにしか思っていなかった。
すると、あ。と佐助が突然何を思い至ったように声を上げた。
「もしかしたらご飯まで食べるかも!だから夜もさ・・・」
「それはダメだな」
今回は勘弁してよ。と言う前に片倉は佐助が喋るのを遮った。
「ダメだ」
「はぁあ。なんでよいいでしょうが」
「無理な相談だな」
「・・・あんたにダメって言われる意味がわかんないんですけど」
「ダメなものはダメだ。そこまで許せるほど俺は甘くはねぇ」
佐助はなんでこの男にこんなことを言われなければいけないのかわからなかった。
まぁ教師の立場を考えれば学生の男女が夜遅くまで出歩くなと言うのはわからない話でもない。しかし、片倉は
一人暮らしの学生の家に缶ビールを持ってくるような男だ。それこそ片倉の自宅には政宗用のアルコールも常備してある。
それに門限を咎めるならまず先に自分が面倒を見ている政宗の素行を正すべきではないかと思った。
「・・・それ先生として言ってんの?」
そう佐助は片倉に問うとまさか、と明らかに馬鹿にした風な返事が返ってくる。
俺様にはアンタの言ってる意味がわかんねぇだけど。佐助は再度そう言うと片倉は肩を竦めながらこれ見よがしに溜息をついた。
「俺にはお前の感覚がわからんが」
そういうと、そんな顔してんなと額を弾かれた。
感覚?何のことだ。佐助には片倉の言っている事が本気で理解できなかった。親しい友人としかも女の子で
多少なりとも下心が無きにしも非ずの佐助、というか健全な高校男児にとって昼遊んで夜一緒にご飯まで食べたいな。
というのは当然の思考だと佐助は思っている。
それを片倉は感覚がわからないと言い。許す気はないらしい。
「納得できる理由がほしいんだけど」
佐助は自分の考えに妙な自信を持っていたし他の友達連中の幸村を除くみんなも同じ事を考えるだろうと思っていた。
ならば片倉がこうまで反対する理由を聞いておかねば腑に落ちない。
そう意気込んで思わず身を乗り出す佐助に片倉は、やっぱりてめぇはボケてんな、と苦笑いで言った。
「テメェがどんな気で言ってんのかは知らんが、普通付き合ってるやつが女と遊びに行くと言って
昼間だけならいざしらず挙句に夜までだと?それをはいどうぞ。と言えるほど俺は無節操じゃぁないぜ」
片倉は寝言は寝て言えと付け加えながらそろそろ興味が失せたのか、またサインペンを握り採点を始めてしまった。
ん?んん??
おかしな事を言われた気がする。今。
佐助は片倉が言った言葉がよく聞きとっれなかった。でもとても不吉なことを言っていた気がする。
「・・・あの。質問していい」
「なんだ。面倒臭ぇな」
次ふざけたこと言ったら口塞ぐぞ、と言いながら片倉は酷く嫌そうな顔をしながら顔を上げた。
「・・・だ、誰と誰がつきあってるって?」
そう恐る恐る聞く佐助に片倉は思わず首をかくと傾げて見せた。そしてとても不思議そうに
「俺とお前だろ」
何を今更。というとそう片倉が言い終わるのと同時に動かなくなってしまった佐助の頭を軽く小突いてみた。
何寝てんだ。と片倉が更に佐助を小突こうと頭に手を持っていった瞬間佐助はすくりと立ち上がった。
「はぁあああああああぁぁあああ?!」
「うるせぇな」
佐助は急に立ち上がったかと思うと突然大声を上げた。そして怒っているのか困っているのかなんとも言えないような
表情をしながら何事かブツブツといいながら明らかに挙動不審な動きを見せた。
「いいい意味がわかんない!付き合ってるってなんだよ!いつそんな事になったよ!」
「うるせぇ。落ち着け」
「ええぇえっどうしよ!訳がわかんない!もうどうしたらいい」
「・・・落ち着けと言ってるだろうが」
「っもぉおおおなんなのこ「うるっせぇよ!とりあえず座りやがれ呆け野郎が!!」
ひっすいません。とまるで先ほどまでの勢いが嘘のように佐助は急に静かになるその場に正座をした。 佐助は片倉の
あまりの迫力とあまりの恐ろしい形相にいっぱいいっぱいになってパニックになっていたのもいっきに吹き飛んでしまった。
あまりのことにすっかり縮こまってしまった佐助を眺めながら片倉は、また大きな溜息をついた。いつもとまったく逆である。
「とりあえず言いたいことがあったら順序立てて話しやがれ」
片倉にそう言われると佐助とりあえずと言った感じで正座した足をもじもじと動かしながら「いつから俺たちそんな
関係だったんですか」と聞いた。 佐助的には全くの初耳でそんなことになってるなんて本当に知らなかった。
「はぁ?かれこれ2,3ヶ月くらい前だろ」
身に覚えが全く無い。佐助そう思った。片倉が無意識に自分の事を好きなのは知っていたが
まさか自分と片倉が付き合っているなどとは思ってもいなかった。 佐助は何だかよくわからない嫌な汗をかきながら
何かそれらしい切っ掛けがあったかと思い返してみたが全然思い浮かばない。
「えっと、身に覚えないんだけど」
「そうか」
「え・・・傷付いた?」
すると片倉はなんともなさげにいや別に、と答えた。本当にどうも思っていないようだ。
それでも佐助は今の自分の発言が無責任だったと後悔した。 佐助には身に覚えはないが、もしいつだか片倉が
佐助にそんな話をしていてそれを佐助が聞き逃しているだけならとんでもなく失礼な話だ。 もし自分が付き
合ってる子にそう言われたら傷付いてしまうだろう。
佐助はごめん。と小さく呟いた。
「俺がさそんな話のとき聞いてなかったのかな。それならすげぇやだよね。ごめん」
するとまた片倉は別にといった。そして佐助の眉間に人差し指を伸ばしトンと軽く押した。
「情けねぇ顔すんじゃねぇよ」
「あ。いや・・・その」
「嫌だったか」
何がと言わず片倉は指を眉間につけたままそう尋ねてきた。佐助は、え。っといいながら珍しく佐助の目を覗き
込んでくるようにきちんと目を合わせてくる片倉の目から視線を外せなくなった。もうすこし近づいたら片倉の瞳に
佐助の顔が写りこむような気がする。
「嫌か」
もう一度と問うてくる片倉に佐助はよくわからない。と返した。
「全部わかんねぇよ。いいか嫌かも。」
「そうか」
「だいたいあんた俺のこと好きなのかよ」
佐助は自分で言っておきながら恥ずかしさと居た堪れなさに思わず首から頬にかけてが急に熱を持ったような気がした。
たぶん顔が赤くなっているだろう。 すると佐助の反応を見てか片倉は小さく微笑むと眉間に当てていた指を離しそのまま
佐助より少し大きな手を佐助の頭の上にそっと乗せた。
そしてさぁな、とたぶん初めてなんじゃないだろうかと思うほど片倉や穏やかな顔をしながら言った。
「さぁなってあんた・・・」
「好きかどうかは俺にもわからんが、ん。そうだな」
たまに、と言いながら頭の上にあった手を動かしてくしゅくしゅと佐助の明るい橙色の髪を梳いた。
「たまにこうやって触りたくなったり、顔が見たくなったりする」
佐助は一気に自分の体温が上昇したような気がした。好きかどうかわからないなんてそんなの好きに決ってるから思うことだろう。
でも佐助にはそんなこと決して口に出せなかった。
それに何か言うと片倉の頭を撫でている手が離れてしまいそうで何も言う気にならなかった。
「嫌か」
三度目の問いに佐助は戸惑いながらも嫌じゃないと答えた。
―――何故って
髪を梳くように頭を撫でる片倉の手がとても暖かくて気持ちが良かったから。
そしてもうちょっと撫でてもらってもいいかなと思ったからだった。
「いいのか断っても」
丁度佐助が携帯を閉じたのを見計らったように片倉は佐助に聞いた。
佐助が今まで話していた相手はかすがで週末の約束を佐助は断ったのだった。
「んー惜しいけどいいよ。仕方ない」
「別に俺は止めんぞ?」
いいやこれは俺の気持ちの問題。と佐助いいながらすっかり採点を止めてソファに座って寛いでいる男の横に腰を
下ろした。 先ほどの衝撃的な事実の発覚から約1時間ほどたったあとである。佐助も流石に落ち着いたようでちゃんと
脳内での把握が終わったようだった。
嫌じゃないと答えた後ふたりで珍しくちゃんとした会話をした。何だか初めて片倉小十郎と話を
したような気が佐助はした。 そして片倉自身のまだちゃんと自分の気持ちがよくわかっていないというのもあり
おつき合い云々はとりあえず保留としてきちんとお互いを知る事から始めようという事になった。今までどうりに
生活をしながらでもきちんと今回のように誤解が起きないように話し合って。
まるで初めての恋愛のようだ。と佐助は思ったが自分と片倉のふたりを見比べてそんな似合わないものも無いだろうと言うのを止めた。
そして佐助がかすがとの約束を断ってそれを己の気持ちの問題と言ったのも、佐助はまだ本当に片倉を恋愛対象として
見れてはいないが少なくとも片倉の方は佐助の事が好きなのだ。そんな人とこれからきちんと話し合っていこうという
のに自分は女と遊びに行くなどルール違反な気がした。それにどんなに平気と言われようとあまり気持ちのいい物ではないはずだ。
最近はすっかり片倉に慣れきった佐助はできることならあまりこの人を不快にさせたくない。ような気がする。
「そうだ。もっかい頭撫でてよ」
「はぁ?」
「さっきのさっきの」
すると仕方ねぇなと言いながら大きな手が頭に掛かった。
授業でチョークを持ったときにそれの当るところの指だけ部分的に荒れて固くなった長い指が手櫛でもするように髪を梳いてくれる。
なんだかこんなことされていると、話し合うまでも無くもうすっかり佐助の気持ちが片倉に転がっていないでもない気がするが
それはまだ深く考えないでおこうと思った。実はすっかり絆されてるきもするしうっかり好きなんじゃないかとも思うが
それを今言ってしまうのが佐助はもったいないような気がしたからだ。
あぁ片倉さんの頭のおかしいのが俺に伝染した。佐助は口に出すと間違いなく恐ろしい目に合うのでそっと心の中で呟いた。
「こんなつもりじゃなかったのにな・・・」
「何がだ」
「べぇつに」
「ふ。おかしなやつだ」
あんたほどじゃねぇよ。佐助はおもわずケタケタと笑いながら頭を振って手に押し付けてみた。
やべー。絶対好きになっちまいそうな気がする!
佐助はなんだか甘ったるい気分を紛らわすようにわざと片倉を怒らせようと何かふざけた事を言おうと考えた。
おわり
シリーズ4本目です。すごいな。続いてるのが。
最初と政宗のノリが違うのは話し聞いてるうちにお前らウゼェーと思ったからです。
だんだんコジュサスちっくになってきた・・・
2007.10.01
2008.03.09ちょっと加筆、修正
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