○◎新年は誰かよりも貴方の隣で◎○ 



我ながら真面目に大掃除をしたものだ。佐助はきれいになった室内を見渡し満足げに胸のところで腕を組んだ。 


当初、ここ数ヶ月に渡って入り浸りになっていた不良教師、もとい。ヤ○ザ教師の片倉小十郎の所為で大掃除は
できないのではないだろうかと半ば本気で危惧していた佐助だったのだが、男は顔のわりにそういった行事的な
ものはきっちりとこなす性格をしていたらしく師走の月を半分過ぎた頃からぱたりと佐助の家を訪れなくなって
しまった。 
そうなると、大声では言えないものの仮にもその教師、しかも担任と不本意ながら恋仲となってしまっている佐
助は、学校が冬休みになったのもあり全く会う機会のなくなってしまい、これまた不本意であるが此方から連絡
をとってみたりした。 
片倉が言うにはどうも年内に片付けならない仕事や、政宗と二人暮しの割に無駄に広い家の大掃除やらに追われ
ているらしい。先生はああ見えて以外に家事と呼ばれる作業をするのが好きなのだそうだ。 

だからそのおかげというのもあり佐助はこうして今年最後の日である31日に部屋を見渡しながら腕を組んで優
越に浸れているのである。 


「あ〜大将のとこ帰るべきかね」 

佐助はふと一駅離れた場所に在る実家の存在を思い出した。思い出したと言っても決して忘れていたわけではな
いのだが、年末年始に佐助の実家である武田家で行われる新年を祝う数日間に渡る宴会の激しさを思い出したく
ないので実家の存在ごとできれば忘れてしまいたかったのだ。 
正直にいうと武田家の宴会はどんちゃん騒ぎなんて言葉で片付けられる代物ではないのある。 
佐助の義父である武田信玄というのが全てにおいてスケールが大きい人物であるためにそれに尺度を合わせてし
まった宴会は、最早、佐助の常識を超越していた。それにその武田家の宴会にあの幸村の真田家まで参加するの
だ。どれだけ激しいかなどもう説明は不要な筈だ。 

「たまにはひとりってのも悪くない気がする」 


去年は佐助の家で政宗や幸村たちとどんちゃん騒ぎだった。その前の年はまだ実家を出ていなかったので宴会に
強制参加。高校生なので当然未成年であるにも関わらず浴びるように酒を飲まされた気がする。佐助の周りはど
うも笊を越して枠な人間ばかりのようだ。 

「片倉さんは、きっと政宗ん家の方に付きっきりだろうしね」 

いや、別にふたりで大晦日と三が日を過ごしたいとか微塵も思っていませんが。 
武田や真田もそこそこ名の知れた家柄であるらしいが伊達も同じくらいのお家柄のようでその伊達に古くから関
わりのある片倉はどうも正月はそちらに掛かり切りになるだろう、と一応年末年始の予定を尋ねた佐助に片倉は
事も無さげにそう言っていた。 
それに佐助も、あぁそうなんだ。と返し会話を終わらせた記憶はまだ新しい。 


去年まで呼んでもいないのに勝手に集まってきていた連中はいったいどうしたのだろう。佐助はふと栗色の髪の
アホの子と銀髪の左眼帯と濃い茶の髪の右眼帯を思い浮かべた。 

「べ、別に寂しいわけじゃないんだからっ」 

点けっ放しのテレビから年末の特別番組の音が聞こえる片付いた部屋の中でひとり薄ら寒い事を言った佐助は無
言でなぜか幸村が信玄におねだりして買ってもらったこたつに入る。 
そしてそのままテーブルの上に置いてあった携帯で、一番暇そうな元親にさりげなく今からの予定を尋ねるメー
ルを送ってみる。 



『俺いま四国のばーちゃん家。お前らだけで盛り上がれよ!吐くなよ佐助!』 


「誰もいね−んですけど。っていうか吐かねぇよ」 

そういや四国に行くとか行かないとか終業式の日に言っていたような気がすると思い出した佐助はテーブルに頬
を付けた。 
幸村は初めから今年の大晦日は信玄の所に行くと言っていたのでメールをする気にならない。政宗は、何となく
政宗に寂しがってるなどと思われるのが癪で連絡なんて取りたくない。佐助は、はぁと溜息を吐いた。大人しく
諦めて実家に帰ってしまえばこんな何となく負けた気分を味わずに済むのだろうが、これが少し性格の捻くれた
佐助の佐助たるところであった。 


「前言撤回。ひとりってなんか悔しい」 

きっとクリスマスに手を繋いだカップルばかり歩く町を独りポケットに手を入れて歩く時の感じに似ている気が
する。 むぅう。佐助はテーブルに顔を落としたまま呻いた。そしてとてもとても小さな微かな声で 

「片倉さんの馬鹿」 

と言った。 

こういうときにこそ意味わかんないことしながら横にいるべきでしょうが。佐助は大いに自分勝手な事を考えな
がら不貞寝をしてしまおうと決めた。 


それから佐助は独りぼっちでコンビニにカップ蕎麦を買いに行き、面白くもない某局の歌合戦を見ながら本を読
みながらコタツで暖かさに縋り、長いながい大晦日を過ごした。 


ああ。もう直ぐで年がかわる。佐助は11時を過ぎたあたりになって何となく片倉にメールではなく電話をして
みた。 どうせ12時前後は回線が混雑して電話もメールもしにくくなるので1時間くらい早いほうがいいだろ。 

トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。・・・・・・ 

コールが計、5回で留守番電話サービスに切り替わった。出れないのか、出る気がないのか、それとも気付いて
ないのか。あ、気付いてないとかありえる。あんまり携帯持ち歩かない人みたいだし。佐助は留守電のアナウン
スを聞きながらそんな事をつらつらと考えた。まぁ電話に片倉が出たところでなにを話そうかなど考えていなか
ったのだが。ピィイと発信音の高い音が耳に響く。佐助は何か言おうか、それとも何も言わず着歴だけで済ませ
るかを少しだけ思案した。 




「・・・・・・ばぁか」 




そして一言、目の前では怖くて決して言えない事を留守電に吹き込んで佐助は通話を切った。 










コタツに入ったままいつの間にか寝入ってしまった佐助は夢うつつに地震が起きている錯覚に陥った。横揺れの
大き目の揺れを感じたのだ。ゆさゆさと揺れる体に脳では起きなくては、と指示を出しているのに体がまだ完全
に寝ぼけているのか全く動いてくれない。 
その内、地震と一緒に幻聴まで聞こえてした。おい、おい。この阿呆が。とよく聞き慣れた声の幻聴がする。
誰の声だっけ。佐助は声の主が思い出せずそのまままた眠りに入ってしまおうと思った。 

「ほら、猿飛起きねぇか!さっさと起きやがれ!」 

一際強い揺れを体に感じた同時にそれはからは揺れと共に強い衝撃も感じた佐助はさすがに重たい瞼を持ち上げた。 
すると目の前にはすらりと伸びた長い足が佐助のコタツからはみ出た肩を思いっきり踏みつけていた。 




「は?かたくらさん?」 




恋人と同じ名前の同じ顔をした人物は人を思い切り踏みつけたまま、明けましておめでとうございます。と言った。 




「あ。こっちこそ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくって、人踏みつけたままですか」 
「こちらこそどうぞよろしく。・・・よくも年越す間際にイタ電なんぞしてくれたな」 

口角を片方だけくいと持ち上げ人の悪い笑みを浮かべた男は新年の挨拶をしながら佐助の肩をぐいぐいと体重を
かけて踏みつけた。 

「痛いから!いたいいたい!って新年早々そっちこそ不法侵入かよ!!」 

踏みつけている足を何とか持ち上げ様を足を両手で掴んだ佐助は口でも必死に抵抗した。部屋の明かりが点けら
れて今何時かはよくわからないが電気を点けなければならない事を考えるとまだ日が昇ってはいないのだろう。 
そんな時間に態々不法侵入までして佐助を踏みつけている片倉に佐助は新年早々意味のわからない行動に片倉が
どうしたのか少しも想像ができなかった。 

「不法侵入じゃねぇよ。ちゃんと鍵で開けた」 
「何で持ってんの?!」 
「前作った」 
「知らないし!!俺!」 

粗方踏んで気が済んだのか佐助から足を退けた片倉はほら、と佐助の家の鍵と全く同じ形をした鍵を上着のポケ
ットから出して見せた。 


「ほら行くぜ」 
「へ?どこに」 
「いいから着替えろ厚着しろよ。外は寒い」 

片倉は佐助に言い放つとまるで当然のように佐助の部屋の引出しを開け手袋を取り出した。それの色はグレーに
近い黒い色をしている落ち着いた感じで佐助の手袋ではなく片倉本人の私物であった。それを見ていた佐助は寒
いと言う彼が態々佐助の手袋を取ってくれたのかと、新年早々珍しい事もあるものだ。と感心した。すると当た
り前に取り出したのは片倉本人の物で。期待が完全に外れた佐助に男は、ここに置いているのを忘れてた。と言
った。いや、元々期待なんて物をこの男にすること自体が非常に無駄な行為であるともう充分というほど身を持
って実感しているのだから。と佐助は強制的に覚醒させられ仕方無しにコタツから出ると、早くしろと急かす片
倉に従いバタバタと服を着替えジャンバーを羽織った。 


「ちんたらしやがって、・・・ほら少し急ぐぜ」 
「何処に行くのかきいていいかな?」 

漸く着替えまだ空が夜色一色に覆われている暗い外に出ると片倉は携帯の画面で時間を確認すると、小さく舌打
ちしてみせる。ギリギリか。などと言いながら佐助を置いてそのまま歩き出してしまった。しかも佐助の質問を
完全に無視してだ。 

「いやいや、ちょっと待ちなよって。片倉さん!」 
「あぁもう。煩いやろうだな」 

急に歩き出してしまった片倉に佐助は戸惑いの声を上げる。人を叩き起し、もとい。蹴り起しておきながらそこ
まで無視されたのでは流石に堪らない。すると黙って付いて来ないのが気に入らないのか本当に時間に余裕ない
のか片倉は苛立たしげに、いつもに増して更に怖い顔をしながら振り返る。 
そしてそのまま佐助の元に戻ってくると佐助の片方の手首を掴みそのまま先ほどのように歩き出した。 

「っあ!ちょっ!?」 
「まだ夜中なんだ。ちったぁ黙って付いて来い」 

あ。何この珍しい正論は。流石は腐っても教師というべきか言う時にはきちんとした事を言うらしい。思わぬ不
意打ちに佐助は何も言えなくなってしまった。そのまま問いただすタイミングを見事に外し片倉に手を引かれな
がらまだ夜の闇に空が覆われている中、ちらほらと家の窓に明かりがともっているのが佐助の目に入ってくる。
みんな早起きだねぇ、あ。俺もか。佐助はそういえば時間を全く確認せずに家を出てきてしまった事を思い出し
た。そして佐助の腕を引く男に急かされ財布も携帯も何も持たず、佐助自身が時間を確認するすべがないため今
がいったい何時くらいなのか全くわからなかった。片倉は知っているようだがこの調子ではきっと訊ねたところ
で教えてはくれまい。 
はぁ、と今年初めの溜息を佐助は吐いた。そしてその溜息は白い蒸気となって夜空に溶けていき、その溶け込ん
でいく先にある片倉の背中を見ながら佐助は、あれ?とふと湧いた疑問に思わず首を傾げた。 
片倉が歩いているのは毎日佐助の通っている学校への道のりではないだろうか。そして歩きなれた道をどんどん
歩いていくうち疑問が確信に変わる頃には遠めに校舎が見えるようになってきていた。 

「学校にきたの」 
「・・・ああ」 
「入る気?開いてないでしょ。」 

「開いてないなら・・・」 

開けるまでだ。と無駄にかっこいい事を言いながら正門の前につくとコートのポケットから取り出した鍵で施錠
を解いてしまった。許可はとったのか。とかセキュリティー面はどうなのかとか色々ツッコミを入れたくなった
が片倉があまりにもあっさり門を少しだけ開き中に入ってしまうので結局何も言えなかった。うちの学校っても
しかして結構防犯面とか杜撰なのかしら。余計な事が何だか心配になってしまいそうな佐助であった。そんな佐
助を余所に、正門の次に正面玄関の施錠を当たり前のように片倉は解いてしまう、そのまま矢張り中に入ると来
客用のスリッパに履き替えてしまった。 

「何するのさ?肝試しは季節違うよ」 
「まぁな。早くしな」 

門の施錠を解く際に佐助の腕から手を離してしまった片倉は己と同じようにスリッパに履き替えている佐助の腕
を再度手に取るとそのまま校舎の中に進んでいく。校舎の中は非常灯と非常口の明かりだけがぼんやりと光って
いてとても薄気味悪い。佐助はその独特な雰囲気の静まりかえたった廊下を片倉に連れられながら歩いた。多少
ビビッてしまった佐助は思わず歩幅を広げ片倉にくっつくようにした。そうやってくっ付いてきた佐助に片倉は
少しだけ口角を片方持ち上げると、こんなとこに何度か当直で泊まった事がある。と言った。それを聞いた佐助
は教師ってすげぇな。と少し感心した。きっと自分には無理だろう。 

ふたりは、ぽつりぽつりたまに二言三言話しながら階段を昇った。片倉の用があるのはどうも屋上らしい。4階
建ての校舎を全て昇ると屋上へ入る扉の所までくるとやっぱり片倉は鍵を開け外にでた。そして、ああ間に合っ
たと言った。 

そこで初めて佐助は片倉が何をしに学校のしかも屋上に来たのか漸く理解できた。片倉が明けた扉の先に見える
遠くの空がこれまでの夜色から深い紫色へと姿を変え始めていた。 


「片倉さん、初日の出、観に来たの」 
「ああ。近場でここが一番よく見える」 

相変わらず空気はピンと張りあたりも凛と静かなのにも関わらず、煩いと錯覚しそうになるほど瞬きをするたび
にどんどん彩を変化させてゆく東の空の情景に佐助は思わずいつの間にかきちんと手を繋いで片倉の手を力を込
めて握り返した。 
深い紫が広がりそれが次に彩度を上げてゆく、そしてその後に目を見張るようなオレンジがじわりじわりと空を
染め上げてゆく。オーケストラが静かに繊細な前奏をしているように、微かな動きなのに胸の奥の心の臓を揺さ
ぶる感覚にどこか似ている。 

「あそこらへんの色がお前の髪そっくりだな」 

闇を凄い勢いで塗りつぶしてゆくオレンジを片倉は指さしそう言うと、眩しいな。と付け加えた。 
一番遠くの空の更に奥から、漸く直視出来ないほどの眩い光源が顔を覗かせた。橙なのか赤なのか白なのか黄な
のか、どれにも見えるがけしてどれでもない大きななそれはズンズンと昇ってくる。 
テレビでは何度か見たことあるのだが、それとは全く比べ様がないほど目の前に広がる情景は美しいものに見え
る。 

「なんとなくお前さんと初日の出が見たくなってな」 

不意に片倉は口を開いた。顔は相変わらず太陽のほうを向いてはいるがそれは佐助に対して言ったもので間違い
なかった。佐助はどうしたものかとちらりと片倉の顔を盗み見た。きっと、相変わらずの無意識の発言なのだろ
うが佐助からしてみればそんな事を無闇やたらと言ってほしくなどない。特にこんな場面でなんて反則過ぎる。
それでなくとも大晦日独りで過ごして弱っているというのに。
佐助はじんわりと胸が熱くなるのが自分ではっきりとわかった。口ではどうのと言ってはいるが付き合い始めて
いくらかは経つ。佐助もそれなりに片倉の事を好きになっている。絆されたというのが一番しっくりくるのだが
。それなのに今のように突然、恥ずかしげもなく恥ずかしい事を言い出す片倉に佐助は毎回死にたくなる。だっ
てドキドキが止まらなくなるのだ。 
片倉の分までドキドキしてるんじゃないかとたまに思うときがある。この人が恥ずかしがらない分自分が二倍ド
キドキしているのだ。どんな生き物でも脈拍の総数はみんな同数だと何かで聞いたことがある。それならばきっ
と己は片倉の分までドキドキしているのだから短命なのかもしれない。 

視界全域に広がる去年までの夜が開け新年の日が昇り全てのものを新しい物にかえてゆく光景を目にしながら佐
助は相変わらず繋ぎぱなしの手に意識をやった。お互いに手袋をつけているからもうひとつのそれを鈍い暖かさ
でしか感じれないけれどそれが何となく嬉しかった。 

「不本意だけど新年早々、片倉さんをちょっと好きかもとか思っちゃった」 
「はぁ?」 
「だってこんな凄いの『お前に見せたかった』とかとんだ説き文句だぜ」 
「ああそうか。ならきちんと拝んどけよ」 
「片倉さんと一年上手くやっていけますように?」 
「違う。ちゃんと卒業できますように。だ」 

「は?」 

佐助はこれまでじんわり色んなところに感じていた暖かさが急激に冷え込んでいくのがわかった。興ざめとはま
さにこの事だろう。そんな雰囲気をぶち壊した本人は、うんうん。と頷きながら卒業できればいいな。などと少
しも感情を込めずに言う。 

「・・・いやいや。俺卒業できるでしょ。普通に出席率もいいし成績もそこそこでしょ?!え?出来ないの?」 
「俺次第だな」 
「アンタ次第かよ!!」 
「一教科でも単位足りないとダブりだからな」 

あまりにも清清しく言う片倉に佐助はいつの間にか完全に姿を現した太陽の光一緒に魂がどこか遠くに飛ばしか
ける。“俺次第”ということはこの男は佐助の成績を改ざんする気なのだろうか。それならばいくら神様や仏様
やお日様に拝んだ所で一緒ではないだろうか。 

「・・・・・・か、片倉小十郎様卒業させてください」 

佐助は両の掌をくっ付け、思わず横にいる片倉を拝んだ。この男は基本的に冗談は言わない。と言う事は本当に
気が向けば卒業妨害をしかねない。無信仰である佐助がこれまでに拝んだ事もないほど真剣に片倉に手を合わせ
ている片倉は面白そうに口角を片方だけ持ち上げくつりと笑った。 

「そんなにしてぇか?」 
「そりゃそうでしょ!!」 
「じゃあ精々頑張るこったな」 

そして卒業したらうちに越してきてうちから大学に行けばいい。どうせ政宗様は留学なさるおつもりいるし部屋
もまだあるしな。俺もそっちのが都合がいい。
つらつらとまるで歌でもうたかのように片倉は不穏な事を一気に言ってのける。佐助もうっかり聞き逃すくらい
何でもないようにだ。 

「は?!」 

多分これは新年三回目の『は?』だろう。 

「ごめ・・・もっかい言って」 
「だから、卒業後に政宗様が留学するからその後にてめぇがうちにこしてきてうち「・・・もういいです」 

面倒くさそうに再度同じ事を言い出した片倉を佐助は両肩を掴んで途中で制止した。 
この男は何処まで本気なのだろう。あ、そういえばさっきこの人冗談言わないって説明したっけ。ならこれ全部
本気なんだ。 
一年後俺は卒業と同時にこの宇宙人の所に嫁ぐ事になるのか。それよりも政宗はいいというのだろうか。 

「安心しろ政宗様も良いと言ってくださっている」 

はぁ。許可ももう取得済みですか。 
佐助はこんど宇宙のどの辺に片倉の母星があるのか尋ねてみようかと、もうすっかり昇りきり空中が新しい朝に
溢れているその下でぼんやりと思った。 
片倉の両肩に乗せていた手を胸元まで持ってゆきそのまま片倉に体重をかけ、空いた肩に佐助は額を乗せた。 

「・・・・・・・・・はぁ。来年は大晦日から一緒がいいかも。蹴りで起されるのは嬉しくねぇな」 
「お前がイタズラ電話するからだろう」 
「・・・・・・・・・いたずらじゃねんすけど」 


「なんだ。お前。もしかして・・・」 

イタズラではないと佐助がばつが悪そうに言うと片倉は不思議そうな顔をし、その後直ぐに綺麗に片付いた部屋
とコタツで寝ている佐助を思い出した。 
もしかしたら大晦日独りだったのかもしれない。それに気づいた片倉は、ははん。としたり顔で佐助の旋毛を眺
めた。 


「寂しかったのか」 
「・・・・・・くやしい!!!」 

こんな時に限って鋭く図星を言い当てる片倉に対して佐助は恐ろしいまでの敗北感を感じた。 
がばりと体を離し顔を真赤にしている佐助はクソっと舌打ちをしながら顔を擦るように手で覆い、きゃああ恥ず
かしい。と悲鳴のような声を上げる。くそう。恥ずかしくて死ねそうだ。さっきとは別の意味で心臓がバクバク
している。佐助は走り出したい衝動に駆られるように、もう帰ると体の向きをかえた。なんなんだこのおっさん
は。いつもは恐ろしく鈍いくせにこんな時だけ鋭くってどうするんだ。あぁ少しでも満更ではないと思ってしま
った己を佐助は叱咤した。なんだかこの分だと今年もまたこの横を付いて歩いているおっさんに振り回される一
年になってしまうのだろ。そのうちそれが麻痺してきてどうも思わなくなりそうな自分がいることに少しだけ恐
怖すら感じる。何だかやだなぁ。佐助は横の片倉の顔を見ながら悔しそうに顔を歪めた。新年早々片倉にしてや
られた佐助は相変わらずドキドキとしている胸が忌々しい。 

新年一番初めに会えたのが片倉で少し嬉しかったとか、初日の出を一緒に見たかったと言われたのにときめいた
とか、朝日に見入る男の横顔が男前だったとか。 
そんな事、絶対口が裂けても言うまいと佐助は固く心の中で誓った。言ったらきっと調子にのるに違いない。 
そう思いながら屋上を出て廊下を歩いていると行きと同じように片倉が佐助の腕を取る。それに気付いた佐助は
今度は自分から掌を重ねて見せる。 
片倉は一瞬眉を片方動かし驚いたようだったがそんなの気にしない。俺様だってたまには積極的にくらいなりま
しょう。折角正月なのだし。 
佐助はきゅっと力を込めて片倉の手を握りながら少し笑った。 

横を歩く片倉の顔が心なし嬉しそうに見えたのだ。それでけで何だか嬉しくなるような気がする佐助はもう駄目
かもしれないとおもわず口に出した。 






「なんだ?」 


「なんでもないよ。あんたが好きかもしんねってこと」 


「・・・・・・ああそうかい」 




片倉さんはやっぱりすこし嬉しそうな顔をした。きっと今年はいい年だろう。 




 






おわり


年賀企画の時にイラストとセットで書いたものです。
そろそろ時効かな。って思ったのと片倉先生シリーズの都合上どうしても
この話は外せなくなりそうなので。

もし企画の申し込みをされた人で不快に感じた方が居れば直ぐに下げます。
もし不快ならば気軽に連絡くださいませ。



2008.01.05
2008.06.16ちょっと訂正しました。






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