真田幸村の憤慨 ダム、ダムと板張りの体育館に響くバスケットボールの弾む音が妙に耳に纏わりつく。 その音の間隔が段々と短く、速くなってゆくのを聞きながら幸村は己の内側に凄い勢いで怒りが蓄積されていっ ている事に気付いた。 ダム、と軽く小さな音を最後に立てると音が止んだ。それまで板張りの目をまるで凝視するかのように睨みつけ て幸村は音が止んだ事に気付き顔を上げる。 その瞬間視界に入った光景に幸村は小さく「クソっ!」と吐き捨てる。 それは常の幸村の口からでは出ないであろう言葉であった。けれどその言葉を言った本人意外には聞こえておら ず相変わらず内側に溜まり続ける怒りに拳をきつく握る。 真田幸村はあまりの怒りにふるりと小さく震えながらもう一度「くそっ」と吐き捨てた。 『――だからって!聞いて居るのか佐助!』 キィンと耳に来るような大きな怒鳴り声に佐助は耳に当てていた携帯を素早く遠のける。 「ハイハイ、聞いてるって今日の昼休みのバスケの話だろ?2on2のさ」 『そうだ』 「で、負けたんだって政宗に」 『っ。政宗殿に負けたのは今日はどうでも良いのだ!』 「じゃあ何さ」 『政宗殿のペアがあの前田慶次であったのだ』 「へぇ。じゃあ旦那は元親とか」 別にさして問題があるようには思えない佐助は相変わらず耳から少し離して持っている携帯電話からの声に耳を 傾けながら不思議そうな顔をする。目の前でも同じ様に不思議そうな顔をしている人物に口の動きだけで「真田 の旦那」と電話口の人間を伝える。すると目の前の人物は携帯から漏れてくる大声に合点いったらしく、ふぅん 。とだけ頷いた。 「で、それの何が気に入らないわけ」 『政宗殿のペアがあれだったのが気に入らぬ』 「そりゃさっき聞いたよ」 『だから、何故政宗殿のペアが前田慶次でなければならぬのだ!』 「いつもどうりじゃんけんしたんだろ?」 『…うむ』 「なら仕方ないじゃん」 『だが気に入らぬ!なぜ元親殿と政宗殿が一緒ではいけなかった』 「…でも旦那?それならアンタが慶次とペア組む事になるよ?」 『そんなの願い下げでござる!!!』 「ならいいじゃん。それにあの二人ペアだと片目に死角あるから不平等って前アンタが言ってたじゃん」 『まぁそうであるが…なら俺が政宗殿とペアでも良いではないか』 「でもさそれも前からアンタが政宗殿に勝つのは俺でござるぅううって言ってペア組みたがらないじゃん」 『っく!…だがな!』 「だがなって旦那。さすがに言ってる事厳しいって」 『っ!そもそもお前が悪いのだぞ!』 「は?俺様が?!」 『そうだ!そもそもお前が昼休み一緒に居なかったから人数合わせであれを元親殿が連れてきたのだ!』 「…ちょっとぉ、俺にも俺の都合があるんですけど」 『では何をしておった!!』 「………」 『は。どうせクーラーの効いた数学準備室で乳繰り合っていたのだろうが!破廉恥な!』 「ばっ!!そんなことするわけ無いだろ?!雑用させられてたんだよ!」 『理由など何とでも言えるわ』 「そりゃないぜ旦那。これって八つ当たりでしょうが!」 携帯の向こう側で大声を上げる相手に劣りはするものの同じほど大きな声を出す佐助に目の前の男はまた不思議 そうにこちらを見ている。そして漏れてくる声と佐助の話すないようからして少なからず自分のにも関係がある のかと男は瞬きをしながら佐助の困り果てた表情を眺める。 『そういうわけだ!!だから佐助 週末駅前のケーキバイキングに俺を連れて行って奢れ!さすれば許してやる』 「そういうわけってどういうわけだよ!自腹でいけよ!ただ食いに行きたいだけだろ!」 『あと政宗殿にも話をしておけ。元親殿には悪いが此度は誘わぬ。あれが付いて来るやもしれぬ』 「どんだけアンタ慶次の事嫌いなんだよ!」 『佐助』 「あぁあもう!なんだよ!」 『ごめんなさいは』 「え、ごめんなさいっておおい!!!俺様は悪くねぇえよ!」 佐助が最後に吠えるのも虚しく途中で通話を一方的にきった幸村に佐助は携帯を握りつぶさん勢いでわなわなと 震える。どうしてこう己の周りにはこういった人間しかいないのかと佐助は虚しくなってくる。 「猿飛」 「ちょっと今の旦那ひどくね?」 先ほどから目の前で採点をしている片倉に同意を求めようと携帯から片倉へと視線を移した佐助は片倉の顔を見 た瞬間にカチリと音を立てたように体の動きを止めてしまった。(一瞬心臓も止まったかも知れない) 片倉は物凄く期待に満ちた目で佐助を見ていた。 「ケーキバイキング行くのか」 「え、ええうん。そう、みたい」 「俺も行く」 政宗様も行くんだろう。なら俺も行く。そうだ引率してやろう。 ウキウキとする片倉に佐助はそうだしまったと顔色を悪くする。目の前の強面は先ほど電話で話していた幸村と 同じほどの甘党である。目の前で週末にケーキバイキングに行くなんて言ったら付いてくるのは当り前ではない か。 「来るの?」 「お前、真田に奢らされんだろ?お前の分出してやるよ」 「本当に!?」 「政宗様の分は俺が持つからついでだ」 何ちょっと俺様の恋人優しくない?!と都合のいいときだけ片倉の事を脳内で恋人と言う佐助は己の現金な所に 目を瞑りながらワーイと喜んでみせる。片倉も片倉で大の男一人でそんな所にいける筈もなく、また一緒に行け る人間にも巡り会った事が無かったため人生初のケーキバイキングに軽く口下が緩んでいる。 そうして週末、無類の甘味好きの真田幸村と片倉小十郎とその甘味好きの二人の所為で免疫のついた猿飛佐助と 甘味が好きではない伊達政宗の四人でケーキバイキングに赴いた。 一人は喜びをそのまま表情に出しながらケーキを食べ、もう一人は表情には出てはいないものの黙々とケーキを 取りに行っては食べ、その横の佐助は食べたいものだけコーヒーと一緒にマイペースに口に運んでいる。そして 最後の一人は何故自分かこの場に居るのかよくわからないと言った表情と辺りに漂う甘ったるい香りに顔を歪ま せながら一番甘くなさそうなケーキをフォークで突付いている。 男四人でケーキバイキングにいるという異常な状況を作り出した四人は好奇な視線の的になりながらも気の 済むまでケーキを堪能したのであった。 「真田の旦那さ、最初からここ着たいだけだったんだろ」 「うむ。クラスの女子が話していて気になって仕方が無かった」 ならば変に理由をつける必要はないだろうと言いたくなったが隣に座っている片倉から幸せなオーラが漂って来 るので佐助はまぁしゃあないか。とヘラリと笑うしかなかった。 そして、しゃあなくねぇよ。という政宗の呟きは誰にも届かなかった。 おわり 幸村編でした。幸村はいつの世も暴君です。 先生は甘いもの食べれて幸せです。この外伝は本編よりも先生と佐助がらぶいですね。 らぶいのはいいことだ。 2008.10.05 ブラウザバックでお戻りください