俺様の名前は猿飛佐助。かれこれ一年程前に結婚しました。まだまだ素敵で可愛い新妻です。 これまで、俺はあまり結婚という物に憧れなど抱いていませんでした。だって共働きで自分したいことをやりな がらって言うのならまだしも専業主婦になってしまえば、旦那がお勤めに行っている間に掃除洗濯やその他家事 をこなして平日の昼は別として旦那のためにご飯を作る。 これじゃ悪い言い方をすれば家政婦さんがお給料にプラスαで愛をつけてもらっているのと同じじゃないか。 そんな感じで自他共に認める己の捻くれ具合を全面に押し出した結婚論を打ち立てた佐助はこのまま素敵にした い事をやりながら独身を満喫しようと思っていました。 子供は可愛いし好きだけど、このご時世産んで果たして本当に幸せに出来るのか悩んでしまうし佐助自身も子供 がどうしても欲しくて堪らない!!というタイプでもない。ならば結婚せずとも問題なしです。 と。思っていたのですが佐助は一年前に結婚してしまいました。 それは何故かというと、以前から付き合ってした彼氏(現在の旦那様)が佐助のそういった未来予想を全く無視 してプロポーズをしてきたからです。しかしだからといってそのプロポーズを無理に受ける必要はなかったので すがこれを聞くと惚気のように思われますが旦那は中々の男前なのです。 あの人と同じほどの男前はそう居まい、と佐助は確信しています。 無口で物静かですが、器用だしフットワークも軽くそれに幅広い知識を持っていて中々の博学です。 しかも綺麗好きで几帳面、真面目で庭弄りが趣味で料理だって得意な武術に心得のある有段者ときている。おま けにお世辞にも優しい顔とは言えない強面をしていますが切れ長の目に何かの芸術作品かと思うほどの素敵な顎 のライン。それに高い鼻に綺麗な形をした口。美形やイケメンという部類ではなくそれは男前と言われる顔です。 そんな旦那、当時彼氏が何を思って結婚を申し込んできたのかは定かではないですが、佐助は自分がこの男とも し結婚せずにいて、それから余所の女とこの男が結婚した場合、その女がこの男を我が物顔をしながら連れまわ し世の中を鼻高々に見せびらかす様を思い浮べてみて、何故か無性に腹が立ったのです。 それならばそんな風になる前に自分が結婚してしまうしかない。と佐助は考えました。 単に余所の女に取られるのも悔しいし、何よりも男の横に自分が居ないのが気に入らなかったというただの嫉妬 だったのですが、残念な事に佐助は捻くれていたためにその感情に気付く事が出来ませんでした。 そんなこんなで佐助無事、と言って正しいのかわからないがその彼氏と結婚をして夫婦になりました。 言い忘れましたが俺様の夫である俺様曰く男前の旦那様の名前は片倉小十郎といいます。 素敵な夫婦生活のススメ 俺様の名前は猿飛佐助。かれこれ一年程前に結婚しました。まだまだ素敵で可愛い新妻です。 そして俺は結婚一年にして自分が結婚詐欺にあったという事実に最近気付きました。 旦那はそれはそれは男前です。佐助は人に「どんな旦那様なの?」と聞かれると必ず「悔しいほどの男前です」 と答えています。それは結婚前から変りません。 しかし、ここ最近変らず男前の旦那に変化が生じ始めました。以前は無口で何を考えているかよくわからない男 で付き合いだした頃なんかはコミュニケーションを取るのが非常に大変だったのだがそれが、ここ数ヶ月くらい からだろうかどうも様子がおかしいのです。 「今日は白か」 「・・・やめなさいよ」 旦那はのっそりと起きてくるや否や朝食の準備をしている佐助の後ろに立ち、佐助のスカートを捲りながらそう 口走りました。白というのは今日佐助が履いている下着の色です。 旦那は毎朝こうやって佐助のスカートを捲ったりズボンのウエスト部分から覗き込んだりして下着の色を確認す るのです。 一番初めにこれをやられた佐助は早朝には到底相応しくないような悲鳴を上げました。悲鳴といっても、キャア なんて可愛らしい物ではなく、うぉおお!?という女らしさが微塵も無い悲鳴でした。それを聞いた旦那は何事 もなかったかのようにスカートを元に戻しながら、何だその雄叫びは。と真顔で尋ねたそうです。 それから数ヶ月、今や毎朝のことなので悲鳴を上げるのもバカバカしくなってきた佐助は溜息混じりの夫に付き 合っているというわけです。 「昨日、寝る前と色が違「まだ寝ぼけてんのかなぁ?」 釈然としない顔で何を言うかと思えばなんて事を。と佐助は真後ろに立っている旦那の足を容赦などせずに踏み つけます。けれど頑丈な夫にはそれは少しもダメージにはならず、しれっとした顔で何でだ、と首を傾げながら 佐助に尋ねてくるので佐助はこのまま手にしている包丁で刺し殺してやろうかと真剣に考えました。 「・・・アンタが昨日脱がしてどっか放ったんでしょうが」 「ああ。そういやそうか」 朝から何言わせんだ。と佐助は大きな溜息を吐きながら尋ねても無駄だと思ってこれまで聞かなかった事をつい に聞いてみようと思いました。 「どうして毎朝さ人の下着確認するわけ」 「毎日違うの履いてんだなぁって」 それに男物と違って色々あるなと思っただけだ。と当たり前のような顔をしている旦那に佐助はなぜ此方がこん なに情けない気持ちになるのかわからないけれど世界中に謝ってしまいたくなるほど情けなく無意味に申し訳な くなってしまいました。 「子供かあんたは」 佐助はげんなりとしながら今年で旦那は幾つになるんだったかしら、とまるで明日の天気予報を思い出そうとす るように考えました。確か今年で29歳のはずだけれど何か間違っているかしら。佐助は何かとても満足そうに しながら自分の橙色の頭を撫でる夫を蜃気楼でも見るようにしつつさりげなく凝視しました。 結婚前と結婚したてはこうじゃなかった。 佐助は最近こう思わない日はありません。 結婚前も一年ほど同棲をしていたのですがその時の夫はこんなんじゃありませんでした。もっと喋らなくていかに も亭主関白そうな感じの人でした。朝一でしかも自分から話し掛けてくることなんて絶対に無かった人です。 それが今ではおはようの前に人の下着の色を確認するエロ親父です。 しかし、佐助とてこれはきっと結婚したから色々遠慮していた部分が段々とオープンになってきたのかな。と始め は思いました。完璧人間にも一つくらいはおかしな所があるべきだと佐助思います。ですのでその誰にも見せない 部分を自分にだけ見せてくれるという事に少なからずの優越感も感じました。正直に言えばこんな偏屈がこんな形 でスキンシップを取ってきた事にこっそり嬉しく思った程です。 でも限度ってあるんじゃねぇの。と口があまりよくない佐助は本人に直接言いました。 「毎朝ペローンってするのやめない?」 「何故だ」 「恥ずかしいじゃん」 「微塵も恥らってないだろお前」 「・・・・・・」 実際、毎朝少しは驚きはする物のあまり恥ずかしさを感じた事が無いため旦那の指摘に上手い切り替えしができませ んした。でもとにかく恥ずかしいから止めて。と苦し紛れに言うと明らかに馬鹿に仕切ったような顔をした夫はハン と鼻で笑い口角を片方だけ上げながら、一言。 「いやだ」 と言いました。 そして佐助がすっかり動きを止めてしまっていた包丁をどさくさに紛れて取ってしまった夫はぺっと佐助をキッ チンから追い出し朝食の続きを作り始めてしまいました。 大体これが片倉家の朝の日常です。どんなに佐助が早起きして朝食を作ろうとしてもそれを旦那が妨害し包丁を 奪ってしまうのです。佐助は自分は嫁としてそれでいいのかと夫の異常具合の次に気になって仕方ありません。 「はい。じゃあいってらっしゃい」 「ああ」 「帰りは」 「後で連絡する。あまり暴れまわるなよ」 「暴れねぇよ。俺は猿か」 じゃあ。と夫は不貞腐れたような顔をした妻の橙色の頭をモシャと一撫ですると行ってくる。と言いながら玄関 を開けて出て行きました。旦那曰く出勤前に佐助の頭を撫でないと元気が出ないそうです。なんだそりゃ、と佐 助は不思議に思いますが傍から見ればただの新婚ホヤホヤの図にしか見えません。 こうして今日も夫の出勤を玄関で見送った佐助はクンと伸びを一回しながら、じゃあ俺様も頑張るかと取り合え ず先ほど二人で食べた朝食の洗物でもするかと家事に取り組みます。 ○○ 「それ、愛妻弁当ってやつか」 「はぁ一応、妻が作ったものですが・・・」 向かいに座り身を乗り出すように旦那こと、小十郎の弁当を覗き込む上司政宗に小十郎は愛が入っているかは定 かではないがと伝えました。今は丁度お昼休みの真っ最中で他の社員で賑やう食堂で小十郎も政宗と一緒に昼食 をとろうとしている所です。 「愛詰まってねぇのか?確か結婚したの去年だろ」 「ええまぁ」 「その割には冷凍食品とかじゃないみたいだが」 「・・・昨日の夕飯の残りです」 「・・・・・・」 嫁は以前からどこか横着な所があり朝早くから一々弁当のおかずを作るぐらいなら前の日の夕飯を少し多めに作 ってそれを弁当の具にしたりもしくは夕飯の残りに前の日の内から少し手を加えておくなどをしておいて、朝は 白飯とその具を詰めるだけの状態にしておいてあります。嫁は変に器用でその上横着なのでこんなこと日常茶飯 事でした。 「新婚だろ?お前ら」 「だと、思いますが。新婚でいつまで言うんでしょうな」 「・・・・・・俺結婚してねぇし、聞かれても」 小十郎は質問に質問で返しました。政宗はそれに思わず自分の手元にあるカレーライスをスプーンで混ぜながら 視線を逸らしました。別に気まずい訳ではないのですが目の前の小十郎は自分の発言を些か何でも信じきってし まう節があるため下手な事を言って夫婦生活に支障をきたしては不味いだろうと思ったのです。 政宗は結婚前に一回と結婚式の日に一回と結婚後に数回、小十郎の奥さんに会ったことがありますが、こんな横 着をするような女ではなかったとも言い切れないと、数回会った中での政宗の受けた印象を思い出して向かいの 男に気付かれないようにそっと溜息を吐きました。政宗にはどうして小十郎が結婚したのか失礼極まりないです が理解できませんでした。 「嫁さん元気か」 「ええ。元気じゃない時がないように」 「それにしても、お前が結婚するなんて思わなかったな」 「そうですか」 「それに、おまえと一緒になりたがる女は他にいくらでもいただろう」 暗に、どうしてあの嫁なのかと政宗は小十郎を見やると小十郎は不思議そうにしながら昨日の夕飯の残りだとい っていたから揚げを口に入れながら数回瞬きをしました。 「・・・あれが一番だったからですが」 依然と不思議そうにしている小十郎に政宗は自分がとんだ地雷を踏んでしまった事に気付きました。まさかこん な回答が帰ってくるなんて想像していなかったからです。あれが一番だったなどと、昼間にしかも会社の食堂で 宣言などして欲しくなどないと政宗は脳内で頭を抱えて蹲りました。 「・・・へぇ」 顔が明らかに引きつっているのが自分でもわかりますがなんとかそれを誤魔化しながら政宗は相槌を打ちます。 出来る事ならばこのままこの会話を早く終わらせたいと思う政宗です。しかし政宗のそんな希望を念を余所に小 十郎は相変わらず当り前のような顔で弁当の具を口に運びながら、寝る前と朝起きたときに顔の違う女を知って いますか。と政宗に問いました。 政宗はその意味がよくわからずにもう一度言ってくれと、聞き返します。 「夜一緒に寝た女が朝起きると別人のような顔の時は無いですか」 小十郎は微かに眉間に皺を寄せながら、寝る前までの顔と朝起きてベッドの中で見る顔が別人な女です。と更に 付け加えます。それに政宗は過去に何度か心当たりが合ったようで同じように渋い顔をすると小さく、何度か。 と言いました。小十郎が言いたいのは要するに一夜を共にした女を朝見ると化粧が剥がれて別人のようになって いると言いたいのです。もっとはっきり言ってしまえば、すっぴんと化粧後は顔が変る女ということです。 「で、それがどうした」 「俺はあれに恐怖しました。寝る前まで見てた女と朝、横で寝てる女が別人かと思うとぞっとします」 「いや、別人じゃないだろ・・・」 「一瞬、ギョっとしませんか?」 「・・・しないとも言えんな」 乾いたように政宗は笑いながら冷える前に全部食べてしまおうと一口カレーを口に含み、でも仕方ないんだろう。 世の中の全ての化粧をする女性をフォローするように言いました。 それに女はそこらへん徹底しているから男が目を覚ます間に起きて顔を元に戻してるじゃないか。と政宗はどう して自分が女性側に立っているのか不思議に思いながら未だに眉間に皺を寄せている向かいの男に言いました。 けれどそこで政宗はひとつ疑問に感じます。これまで小十郎の嫁である佐助の話をしていた筈なのに何故今こん な話をしているのでしょう。 「で、この話がお前の嫁と関係あるのか」 自分的に素晴らしい会話の軌道修正だったと政宗は胸の内でガッツポーズを決めました。 政宗とて過去に朝目覚めた時に横で寝ている女の顔に見覚えが無く、しかも顔色も違えば眉の無い女が寝ている のを見て一目で眠気が吹っ飛んだという経験が無いわけではないです。ですがそれもこれも全ては女性が美しく あろうとする努力の結晶の末でしかもその時自分が好きになっている女性なら特に気にはならない筈。と政宗は 前向きにこれまで考えてきました。それを目の前の男は、恐怖しました。で一刀両断してしまうのです。 政宗はこの時片倉小十郎の恐ろしさを改めて知りました。 「あれは、嫁は一緒に寝た次の日の朝もあの顔でした」 政宗の軌道修正に素直に乗ってきた小十郎は会話の関連性を結論を言う事で政宗に伝えます。 嫁は少々女ッ気に欠けるようで、自分より早く起きて化粧をしようとしなければ、朝起きたときに顔が変る事も ありませんでした。小十郎は顔に似合わないような可愛らしいウサギさんの林檎を口に運びショリっとなんとも 美味しそうな音を立てながら、それに気付いた時に結婚してもいいと思った。と言いました。 がさつで女気のなく、色気も可愛らしさもおまけに胸も無いです。でも朝起きたときに昨日と同じ顔をしていて います。それに下手したら自分よりも遅く起きるので布団が冷える事もありません。 だからあれと結婚しようと決めました。 小十郎は綺麗に弁当を食べ終え弁当箱を組み立てながらそう言いました。散々な言いようです。結婚をしてしま えばここまで嫁の事を酷く言えるのでしょうか。政宗は自分が他人の嫁を見てどういう印象を持ったかを棚に上 げて目の前の男を珍獣を見るような目で見ました。 女気も色気も可愛らしさもおまけに胸もだなんてきっと本人である佐助が聞いたらさぞや激怒するに違いありま せん。下手したら離婚問題でしょうし、立派な名誉毀損のような気がした政宗です。 「政宗様」 「・・・あ?」 不意に小十郎は政宗に呼びかけました。政宗は先ほどの目の前の男の発言の重さにまだ上手く立ち直れていなか ったので急に名を呼ばれて即座に反応ができません。 「な、なんだ」 「早く食べなければ冷えてしまいますし、昼休みも終わってしまいます」 まだ三分の一は残っている政宗のカレーを指さしながら、冷えたカレーは美味しくないですよ。と平然としてい る小十郎に政宗はいったい誰の所為だと思って嫌がると言いたくなりましたがそんな事を言って男を責めても何 にもならない事をこれまでの付き合いで知っているため政宗ははぁと溜息を吐きながら残りのカレーをスプーン で掬い口に入れます。 要するに全く女らしくなく胸も無くとも嫁が大好きなんです。と言いたかっただけじゃないか。 政宗は向かいで自分がカレーを食べ終わるのを見ている結婚一年目の新婚野郎を気付かれないように恨めしい目 で見ながら所構わず惚気るな。と胸の中で毒吐きました。 そして俺はこの男が悔しがる程のいい女、しかも朝起きても顔の変らない女!と結婚してやる。とスプーンを握 っている手に力を入れて自分に誓いました。 ○○ 「おかえりぃ」 「ただいま」 「お風呂掃除がしたい?ご飯の支度がしたい?それとも洗濯物畳みたい?」 そうにっこりと労働をして疲れて帰ってきた夫に佐助はとんでもない事を言い放ちました。 「・・・・・・・・・」 「うっそーん。全部してありますよ。今からご飯にするから着替えといで」 「ちっ」 ふざけた事を言う佐助に小十郎はカバンを放り大きな舌打ちをしながら靴を脱ぎスリッパに履き替えました。 佐助はたまに小十郎が帰宅したのを玄関で出迎えながら疲れきっている夫に対して先ほどのようなとんでもない 事を言います。 少し前に同じように玄関口でネギを一本駄目にしたと冗談をいうと小十郎が本気になって怒ったので結婚初めて の夫婦喧嘩をしました。ネギ一本の事で喧嘩になる新婚夫婦は世界中探してもきっとこの片倉夫妻だけでしょう。 そして数時間の喧嘩の据えに小十郎が人差し指を痛めるという結果で喧嘩の幕を下ろしました。 理由は始めは口論をしていたのですが佐助が口で小十郎を散々に煽った為小十郎が佐助の胸倉を掴み上げました。 その時に佐助がこれでもかと抵抗をしたために胸倉を掴んでいた方の手の人差し指が佐助の服に絡み勢いでおか しな方向に曲がってしまいそうになったのです。 あまりにの痛さに小十郎は怒りどころでなく、佐助も小十郎の指が見るみる腫れるものですから心配し二人で仲 良く救急病院の深夜外来に駆け込みました。診察医の先生に事の経緯を聞かれたときは誤魔化すのが大変で無駄 な恥をかいたと帰り道に包帯の巻かれた指を見ながら小十郎は佐助に恨み言を吐いたのです。 そんな事があったので今は軽い冗談の範囲での佐助の悪ふざけとなっているのです。 「今日の飯は」 「カレーだよ」 「今日昼に政宗様が食ってた」 「あんたが食べたわけじゃないでしょうが」 そういやリビングからカレーの独特の香りがすると小十郎は眉を顰め、昼間目の前でずっと嗅いでいた香りのが 夕飯で少しがっかりした小十郎でした。普通カレーの匂いならば一般的に食欲が増す香りのはずなのにと思いま したが今日は日が悪い様です。小十郎の中では今日はカレー曜日ではありませんでした。 夕食のカレーを食べ終えた小十郎はキッチンで洗物をしている佐助に風呂はどうすると尋ねました。すると佐助 は洗物が終わったら入るよ。と皿に付いている泡を洗い流しながら返事をします。 今日はカレーで二人暮しなのもありシンクにある洗物は極僅かです。小十郎は少しだけ思案すると一言、先に入 ってる。とだけ言うとリビングから出ていってしまいました。片倉夫妻は顔に似合わず(特に旦那の)新婚とい うのも相まって毎日仲良く一緒の風呂に入っています。以前佐助の知り合いの奥さんがこう言っているのを聞き ました。『ずっと夫婦円満の秘訣は一緒に風呂に入って一緒の布団に寝ることよ』それを聞いたときに佐助とて も胡散臭い。と性格上、瞬時に思いましたがそんな事は知らない夫である小十郎が毎日一緒に入りたがる節があ るので、佐助はこの胡散臭い秘訣が本物かどうか実証しようと思っています。 それに恥ずかしいし何となく悔しいので口にはしませんが佐助は夫が体を洗っているところを眺めるのが少し好 きなので、面倒そうにしながらも一緒に風呂に入れるのを喜んでいるのです。 「狭いよ。もうちょっとあっち寄って」 「無理言うな。そう思うなら足の間に座りゃいいだろうが」 「やだ」 佐助は小十郎より少し遅れてバスルームへ行き着ている物を脱ぐとそのまま浴室に入りました。取り合えず体を 一回流した佐助は小十郎に文句を言いながら無理やり小十郎の使っている湯船に浸かります。 結婚した時に新築のしかも適度に高級なマンションの一室を購入したので浴室と湯船はとても広くゆったりとし ています。ですが長身でがっちりとしている小十郎と一緒に風呂に入るとなれば話は別です。 浸かれないほど狭くは無いですが無理な入り方をしようとするとやはり少し窮屈です。それがわかっている小十 郎は自分の足の間に佐助を座らせればそこまで狭く感じない筈だと提案するのですが佐助はそれを頑なに嫌がり 拒否するので今は無理やり横に並んで浸かるという大変窮屈な状況となっているのです。 「何が嫌なんだ」 「あんたね、そうやって座ったら自分が手持ち無沙汰になった途端に人の胸触ってくるくせに」 「いいだろ、減るもんじゃなし」 「嫌だよ。擽ったいでしょうが!それに・・・」 それにあんたこの前、何て言ったか覚えてる?人の胸触りながら お前の女としても慎ましやかさは全部胸に行っちまって、人間は大雑把なのにな、ここだけこんな慎ましやかで どうするんだ。しかもおしとやか過ぎるぜこれじゃ。 って言って人の胸の大きさ散々馬鹿にしたくせに!! 「こんのエロオヤジ!」 佐助は絶対にあんたの足の間になんか座んない。と言いながらその時の事を思い出したのか明らかに顔に怒りの 表情を浮かべながら湯船から上がると髪を洗い出してしまいました。 それを黙って聞いていた小十郎はそれの何処が悪いのかよくわかりませんでしたが、妻が機嫌を損ねてしまった 事だけはよくわかったのでこの後どうやって機嫌を元に戻そうかと少しも反省の色を見せずに橙色の髪を泡まみ れにしながらわしゃわしゃと洗っている佐助を眺めながら考えました。 それにしてもどうして佐助の胸の触るのがいけないのか小十郎はどうしても理解できませんでした。以前から一 緒に風呂に入って湯船に浸かる時は自分の足の間に佐助が座り小十郎の体に背中を預けてきます。 その時に微妙な角度でなんとかぎりぎり見える佐助の決して豊かとは言い難い女性特有の胸の膨らみが湯船に張 ってあるお湯に揺られて微かに揺れながら少しだけ浮いているの見たときに何となく触りたいな。と思ってしま うのです。 これは男なのだから仕方ないと小十郎は思います。でもそれを女性である佐助に理解しろと言うのは難しいので 言ったりはしませんが、でも仕方ないとやっぱり小十郎は思います。 触りたいのだ。それに小十郎は佐助の豊かでない小十郎曰く慎ましやかな胸が結構気に入っているのです。大き すぎて今にも重力に負けてしまいそうな膨らみよりも佐助くらいの大きさが可愛らしいと小十郎は思います。可 愛らしいなどと言うとまた自分の妻が怒り出してしまうのが目に見えているので絶対に言いませんが小十郎は可 愛らしい。と確信しています。たぶん自分の思う嫁の唯一可愛らしいところでしょう。 それが湯船の湯に揺られているのが見えてしまえば触ってしまいたくなるのは当然だと思います。自慢ではあり ませんが小十郎はこと、妻に関してあまり我慢した事がありません。 佐助には言っていないですが結婚しようと決めたのは佐助にプロポーズする十分前でした。 要は小十郎は佐助が大好きでたまらないという事なのですが本人がいまひとつ自覚をしていないのでその気持ち が佐助に伝わる事は中々ありません。そして佐助も大変捻くれた性格をしているのでその小十郎の少し変った愛 情を理解する事ができなければ汲み取る事も出来ないのです。なんとも言いがたい変わり者の夫婦と言えるでし ょう。 俺様の名前は猿飛佐助。かれこれ一年程前に結婚しました。まだまだ素敵で可愛い新妻です。 そして俺は結婚一年にして自分が結婚詐欺にあったという事実に最近気付きました。 一年と少しの同棲の末結婚した何処にでも転がっているような恋愛結婚をしたつもりでいたのですがそれがどう も違ったようなのです。夫の小十郎は結婚詐欺をはたらきました。 結婚前はとても、いえ少しはかわった所のある人ですが、取り合えずまともな人だと思っていました。それなの に結婚して一年ほど経過してみると夫は勝手に俺の下着の色を確かめるわ、胸倉は掴むわ、挙句の果てに人の胸 を小さいと侮辱しながらも我が物顔で手遊び感覚に触ってくるのです。これは間違いなくセクハラだと俺は思っ ています。 結婚する前はこんなことなかったのに、結婚してしまって法的な縛りが生まれた瞬間に本性を露にした彼は間違 いなく詐欺師です。しかも彼は顔に似合わずに自分から林檎はウサギがいいとまで言うのです。 きっと彼の職場で彼がウサギの林檎を食べている様を見た同僚の方達はあの人の嫁はなんて恐ろしい事をするの だ。と思っているに違いありません。 なんて恐ろしい男なんだ。と佐助は大袈裟にしていますがそれが実は口で言っているほど嫌ではないのです。 しかし残念な事に佐助は少し捻くれているため夫の愛あるスキンシップに素直になれないだけなのです。傍から 見ればただの馬鹿が付くような新婚カップルにしか見えないために救いようがありません。 そうして今日も片倉夫妻の一日は終わりを告げるのです。 おわり 小十郎が佐助が物凄く好きな話が書きたかったのです。しかもニョサスで。 でも書き上げてみるとただのエロオヤジでした(笑 ほんとは佐助のスカートを足で捲くる小十郎とか書きたかったんですがそしたらホント救いようの ないエロオヤジになるので止めました。まぁ捲くってる時点でアウトですが; あと小十郎が指いためたのは少し実話です。知り合い夫婦がの旦那さんが同じ様に喧嘩をして人差し指を 骨折してしまいました。小十郎はニョサスを殴んないけど胸倉掴むくらいはしそうです(酷 2008.03.30 ブラウザバックでお戻り下さい。