長曾我部元親の災難










「ほら長曾我部、地毛の証明届け出せ」
「・・・去年出しただろ」
「去年は去年今年は今年だ。そして去年とは風紀の学年担任が違う。
 今年は浅井先生でね。そこらへん厳しいんでな、わかったらさっさと持って来い」

そう本人的には凄んではいないのだが残念なことに凄んでいるようにしか見えない片倉は元親の頭を出席簿で軽
く叩いた。
今日は進級し新学期最初の風紀検査の日である。校則に関してはどちらかというと緩い学校ではあるが一応の風
紀検査という物が月に一度行われている。
そして高校生活三年目の元親は毎年最初の風紀検査に引っかかるのだ。

「面倒な頭しやがって」

やれやれといかにも面倒そうに息を吐くのは去年の担任で今年が隣のクラスの担任である片倉小十郎で、友人の
保護者兼別の友人の恋人をしている元親にとって近しいのか遠いのかよくわからない存在に人物である。
片倉の方も学校以外でも多々顔を合わせる機会があるため遠慮も容赦も皆無で先ほどから数度となく手にしてい
る出席簿で元親の頭を叩いてくる。

はぁとまた目の前の強面の教師が溜息を吐く。いつもならばこの男の事で自分の友人が深いふかい溜息を吐
くというのに今の片倉はそんな事など微塵も知らないように重たい息を吐き出す。

「・・・でも何で俺だけなんすか」

佐助だって毎年仲良く風紀検査にひっかかってる。と元親は口を尖らせながら己のいる廊下から窓ガラス越しに
楽しげに別の友人達と話している佐助の方を指差す。
佐助も毎年元親と同じで髪の色で風紀検査で跳ねられる。まぁ佐助の場合は保護者がこの学校に勤務している教
師なので直ぐに話は解決してしまうのだ。それでも必ず一度は元親と二人仲良く廊下に立たされるのだ。
だが今回はどうも話が違うようで廊下に立っているのは己と学年まとめて風紀検査にあたっている片倉のみであ
る。どうしたものだろう。いくら佐助の保護者が教師だとしても本校一融通が利かないと言っても過言ではない
だろう浅井が学年担任なのであればそんな言い逃れ聞かないはずである。

「なんで佐助は普通に合格なんだよ!訳がわかんねぇよ!」

そう元親は片倉に食ってかかる。佐助だけでなく元親も去年の一年間で片倉の事を怖いとはあまり思わなくなっ
ているようで最近では結構言いたい放題なのだ。

「猿飛の事か」

元親の抗議に片倉は、ああ。と反応を示し先ほど元親がしたように窓ガラス越しに佐助達の姿を見る。
そしてそのまま人の悪い笑みを二っと浮かべると一言、あれは間違いなく地毛だからな。と言いこれだけは間違
いないといやに自信満々で片倉は、ふっと笑って見せる。悪役か極悪人にしか見えない。

「・・・どぉゆう事だよ」
「しりてぇか」
「納得がいくようにな」


すると片倉はしかたねぇとまた心底面倒くさそうな顔をしながら溜息を吐く。
この仕草をする片倉を見るとなにやら腹が立ってくるのは何故だろうと元親は思った。




「あれは下まであの色だったからな」

「は?」

「この目で確認したんだ。間違いねぇ」

まるで胸でも張るように言う片倉の言葉を元親は一瞬理解できな、否したくはなかったがそんな訳にも行く筈も
なく言われた意味が段々と脳を浸透しきったあたりで片倉から三歩ほど後ずさる。

「っ!!!!」
「ほら理由は教えた。とっとと証明届け出せ」



元親は初めて佐助が何故あのように毎日溜息を吐いているのかがとてもよく理解できた気がした。
佐助すまねぇ。俺にはこの男にだけは勝てる気がしねぇ。思わず心の中で佐助に話し掛ける元親は不意に隙を見
せてしまった為、先ほどより一層強い出席簿の叩きを食らった。
















「佐助お前さぁ、よくあんな男相手に勃つな」
「ぶっ!!!!!!」



豪快に口に含んでいた飲み物を噴出した佐助は突然何を言い出すのかと隣に座っている元親を驚愕の目で見た。
元親の指す"あんな男"とはたぶん、いや間違いなく佐助の現在交際中の片倉小十郎のことだろう。
佐助は何とか平静を装いつつ己が吹いた飛沫をポケットティッシュで拭きながら何を言うのかと口角を可笑しい
くらい引くつかせながら尋ねた。

「いや、今日の風紀で・・・・・・」


事の経緯を話す元親の言葉に佐助はあんぐりと開いた口が塞がらなかった。
何を言っているのだあの男は!何故意味がわからないことをおかしなタイミングで毎回言うのだろうか。
佐助は頭を抱えたいと思いながら既に体はその行動をとり半ば蹲るように体を伏せてしまう。最悪だ。よりによ
ってそんな事を友達には(いや他人でも困るが)話して欲しくなかった。

しかも元親は多大な誤解をしているようである。


「あの・・・元親?さっきの話なんだけど」
「でもよぉ。やっぱり体格的にお前が掘られんだろ・・・信じらんねぇな」
「うん。まず人の話聞こうか」

佐助は先ほどから勃つだの掘るだのと危険な言葉を口にする元親に軽い殺意を沸かせながら眉間にを指ではさみ
こむようにして摘んだ。


「あのねそんなんじゃないから俺たち。あんたが考えてるような破廉恥な事じゃないから」
「・・・そうなの、か?」
「ええそうですよ。俺様たちはキモイくらいの清い関係です」

にっこりと笑う佐助に思わず顔を引きつらせながら元親はそうなのかともう一度乾いた声で尋ねた。

「じゃ、じゃあなんで」
「見られたんだよ。開けられたの」
「は?」

だからね、人が風呂に入ってる時にいきなりドア開けてきたの。
いきなり開けて怯んでる俺見て、一言「ほぉ」って言ってそのままドア閉めたの。

「だから元親が想像したようなおぞましい事は少しもないの」

わかってくれたかな。と佐助は凍てつくような笑顔で首を傾げると元親はこくこくと外れそうなほど頷いてみせ
る。佐助は今確実に憤慨している。三年間の付き合いの中で元親の知った佐助は怒れば怒るほど急激に静かにな
る男なのだ。
元親は片倉には勝てないと思ったが同じく佐助にも勝てないと、今そう確信した。
強張った笑顔のまま今日という今日は・・・とまるで呪詛でも唱えるようにしている佐助が恐ろしくて堪らない。
去年までは片倉が怖いのなんのと言っていたが今はそんなもの微塵も思ってはいないだろう。恐らく今夜佐助の
家でとんでもない大戦争が起こるのだろうと予想した元親は政宗の家にお邪魔する予定にしていたのをどうする
ものかと考えた。政宗の家にいたらもしかしたら巻き添えを食うやもしれない。



この時初めて元親は己がとんでもない交友関係を持ってしまったことを自覚した。










おわり




拍手に放置してあった先生外伝です。
もしかたしら「伊達政宗の陰謀」とか「真田幸村の憤慨」とかの
外伝シリーズがあるかもです。笑


2008.06.09



 
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