ももたろう むかしむかしある所におじいさんとおばあさんではなく、片倉小十郎という男と猿飛佐助という男がおりました。 二人は村から離れた所にある一軒家に一緒に住んでおり、朝早くに起きて片倉という男は家の前に広がる大きな 畑の世話をし、猿飛という男は山へ入り狩りをしたり薪になる枝を集めたり山菜などを採ります。 そして二人はいつも決めた時間に川で落ち合い洗濯をしたり休憩を兼ねた昼食を取りそして川の魚を一緒に捕ま えます。 そんな何ら不便の無いほぼ完全自給自足の生活をしていた二人はある日、いつものように川で魚を捕っていました。 「旦那、魚充分集まったよ」 「ああ。じゃあとっとと川から上がれ、感電するぜ」 小十郎がそういうや否や手にしていた刀を川の中に差し入れた瞬間に刀から発せられた電流が一瞬にして川の 水に通電して誘き寄せていた魚が次々と浮かせていきます。 「あんたとの漁は楽でいいよ〜」 佐助は楽ちん楽ちんを笑いながら浮いた魚を手際よく網で掬っていきます。すると佐助の視界の端にとてもこ の場所には不釣合いな物を見つけました。 「ちょっと、旦那あれ見て。でっかい桃だね」 同じ様に魚を掬っていた小十郎の着物の袖を引きながら佐助は自分たちのいる所よりも上流の方を指差しました。 すると指さした方向にはとても大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れながら川を下ってきているではありま せんか。大きな桃といっても普通の桃よりも少し大きめ、なんて類の大きさではありません。恐らくは小十郎が 両腕で抱え上げないと抱える事が出来ないほどの大きさの桃でした。 「あれ桃?」 「…いっとうでかい桃まんが川に落ちてふやけて膨張したんじゃねぇのか」 「たぶんこの時代のこんなところに桃まんなんてないから」 でも本当に桃だとしてもあれだけ大きければさぞや大味で美味しくないでしょう。それを会話する事無く同時に 思った二人はこれから日が暮れるまでまだしなければいけない事が沢山あるためこんな所で油を売ってる訳には いかないと桃をそのままに魚を籠にいれそそくさと帰り支度し始めました。 「何処にも引っかからずに海まで出るんだよ」 「鳥に突付かれないように気をつけるんだな」 そんな物語の根本を台無しにするような台詞を吐いた二人は軽く桃に手を振るとさぁ家に帰るかとくるりと流れ 行く桃に背を向けました。 「stop!おい!!!てめぇらここで桃拾わないでどうするんだ!!!」 「あわわっ!いけませぬまだ喋り出すところではござらぬ!!」 するとどうした事でしょう既にどんぶらこと大分流れていってしまっていた桃が一人でに揺れ動き出したかと思 うと中から怒鳴り声が聞こえてきました。そして怒鳴り声とは別に少し狼狽えた声も聞こえてきます。桃が喋っ たのでしょうか。 「ちょっとー旦那桃が喋ってるよ」 「珍妙だな」 「商人とかに売り飛ばしたらお金になるかも」 「……よし、売ろう」 何処までも冷静に物語を進める気のない二人でした。 そして桃の(?)必死の説得の末売らずに家に運びこんだ桃を割ってみる事にした二人は割ってみて大変驚きま した。中には二人の男の子が入っていたではありませんか。 「桃から出てきたか目つきの悪い方が桃太郎でどんぐり目のほうが桃次郎だな」 小十郎が桃から出てきた順番に命名すると二人の子供はあからさまに嫌そうな顔をしました。 「俺は梵天丸って名前がある」 「某にも、弁丸という名がある!」 二人の子供達はそう胸を張る。桃太郎って名前は今時ダサいぜ、そう梵天丸が言うのに弁丸が続いて桃次郎なん ていないと喚く。そんな二人を心底うざそうな顔で眺めていた小十郎は視線を子供達から割った桃の解体をして いた佐助へと移します。そんな小十郎の視線に気付いたのかふと佐助が顔を上げると小十郎はこのガキ二人をど うする?という問いかけを無言で佐助に合図をします。どうするもこうするも。佐助はひょいと肩を上げながら 首を傾げます。 「では梵天丸殿、今日からこのお二方が某たちの父上と……父上、なのでございますな!」 「そうだな弁丸。もしかしたら母上と母上かも知れねぇが、まぁ性別なんて関係ねぇよ!」 「は?あんたら此処で暮らす気なの?」 「もとよりそのつもりでござる」 子供二人をどうするかを無言のやり取りで話し合っていた小十郎と佐助を余所に勝手に盛り上がり出した子供達 に佐助は驚いて声を上げる。小十郎も帰る場所は無いのか。と問うがそれに梵天丸は此処が既にmy houseだ!と 胸を張ってみせる。 「「と言うわけだ!とりあえず腹減ったなんか食わせろ!」」 「うわぁあああうざいんですけど」 こうして小十郎と佐助の住む一軒家はこの日を境にとても賑やかになりました。 佐助と小十郎が桃を拾ってから数年の時が過ぎました。桃から出てきた子供達は佐助と小十郎が一人ずつ分担し 小十郎が梵天丸を、佐助が弁丸を育てることになりました。そうは言っても同じ家に四人で住んでいるため、して いる事と言っていることは同じなので子育てを分担している事になんら意味は無いのですが大人二人がそうした と決めたので仕方のないことなのです。何故なら二人は特に夫婦な訳でも恋仲という訳でも無くただお互いにそ の方が都合が良いので一緒に住んでいるだけなのです。 そうして子供達の名前が梵天丸から政宗に変わり、弁丸から幸村へと変わった頃、ある日小十郎と佐助は子供達 が庭に出て稽古のしている間に家の中で向かい合い難しい顔をしていました。 「このままじゃいかんな」 「わぁあやっぱり今月も赤だねぇ」 小十郎は手にしている算盤をパチパチと弾き段々と眉間の皺を多く深くしていきます。その向かいで佐助が何や ら書き留められてある紙を見ながら小十郎ほどではありませんがこちらもやはり眉間に皺を寄せます。 二人は大きくなり今まさに成長期の子供達二人に掛かる出費の計算をしていました。勿論それに加え自分達にも それなりに出費はあります。ほぼ完全自給自足の生活と言ってもこれでは需要と供給が間に合いません。 「米も自分ところで作れればまだ違うんだろうがな」 成長期で食べ盛りの子供達は毎食まるで底が抜けたように良く食べます。野菜や別の物をたくさん食べるのはま だ問題ないですが炊け上がった白飯をそれそれは毎回見事に炊いた分全てを食べ尽くすのです。 流石に二人とも水田は持っていないため米だけは定期的に町に買いに行っていたのですが米が安い筈もなく段々 と買う量を増やさなければならない現実に溜息しかでません。 「そうは言っても土地が無いし土地買う余裕もないよ。もし買えたとしても水田にするのにもまた金がいる」 「…確かにな」 「あとどんどんでかくなってる二人の着物もどうにかしないとね」 「「はぁ、金が欲しい」」 二人は成長期の子供二人のエンゲル係数の高さに頭を抱えました。 それから数日後の事、子供達が稽古を終えると少し遠くまで出かけてくると勢いよく駆け出していきました。 そんな元気な二人の姿にどんなに金がかかろうとも愛しいと感じるのはまさに親の愛情で佐助と小十郎は元気に 走っていく子供達の後ろ姿を愛しそう眺める二人はここ数年ですっかりオカンと化していました。 子供達が出て行って数刻後の事、小十郎は家の前に広がる大きな畑で野菜の世話し、佐助は庭先で山に入る時に 持って行く刀の手入れをしていると始め出て行ったときと同じ、いえそれ以上の勢いで子供達が走り帰ってきま した。どこから走ってきたのは二人とも額に汗を浮かべ微かに肩で息をしています。 けれども目はキラキラと眩いばかりに輝いており子供達がこういう目をしている時は大抵、何か悪巧みをしたと きか何かおかしなものを見つけてきた時です。以前同じ目をしながら幸村が大きな赤いモフモフを被って帰って きたことがあります。そしてそのモフモフは今でも家の壁に掛けて飾られてあります。 「佐助!佐助!」「hey!小十郎!小十郎」 子供達は走りこんでくるなり自分の親代わりの二人の名前を呼びながら飛び掛りました。 「凄いでござる!鬼が!鬼ヶ島に鬼でござる!」 「近頃、街とか都が鬼に襲われて金銀財宝を盗まれてるんだってよ!」 「その鬼は非常に強いという話でござる!某、是非一度お手合わせをぉぉぉおぉおおおお!」 「で、都の連中が鬼の盗んだ財宝と引き換えに誰か鬼を退治してくれって!」 「「そういう訳だから今から行ってくる!!」」 帰って来るなり凄い勢いで捲くし立てた子供達はそのまま自分たちが稽古に使う得物を手にもう一度行って帰っ てきた勢いで出て行こうとしました。 けれどそれは大人二人に首根っこしょいと掴まれた事によって阻止されました。 「で、何だって?鬼が出たの?」 「そうでござる!だから某達が退治に!」 「政宗様。鬼を退治すると礼に財宝が貰えると言うのは本当なのですか?」 「間違いねぇ!それに何処もこの話で持ちきりみたいだぜ!だから早くしねぇとよ!」 「そうですか…」 子供の首根っこを持ったまま小十郎と佐助はお互いの顔を見て互いに頷き合いました。深く頷きあうと子供の首 から手を離し政宗達が何か言い出す前に無言で家の中に入っていきました。 政宗と幸村は二人の急な行動に呆気に取られ鬼退治に行くのを瞬間的に忘れ去ると閉まってしまった戸を少し困 惑した表情で見つめました。 それから暫くすると何事も無かったように家の戸がすぅと開きます。そうして出てきた二人の姿に子供二人は目 を大きく見開きました。家から出てきた二人の姿はまるで今から戦に行くような格好をしていました。手にして いる物を何時ものように鎌や鍬や鉈や斧といった農具の類ではなく本物の刀に佐助の手にしているのはとても大 きな手裏剣でした。 「俺達ちょっと鬼退治してくるから」 「え、それは某たちが」 「お前達は強いといっても間だ幼い。もし仕留め損ねて誰かに横取りをされてはかなわん」 「俺達はそんなへましねぇって」 「それに子供の足じゃ同じように鬼退治する大人に先を越されるかもしれないしね」 小十郎と佐助はとても真剣な表情で子供達に留守を任せると言いました。けれども子供達はその説明に納得でき る筈もなくブウブウと文句を言います。それに小十郎が金を稼ぐのはそんなに簡単なことじゃないんだと政宗の 頭を優しく撫でました。それに大人は汚い生き物だから子供だけで行くのはやっぱり心配なのだと今度は佐助が もっともらしい事を優しく笑いながら幸村の目線に合わせてしゃがみ覗き込むようにして言いました。 「それに家の中に凄い量のきび団子作っといたからそれ腐らないように食べといてくれる?旦那」 「きび団子…任せよ!某が責任もって全部平らげておく!」 「って!コラ幸村!何誤魔化されてんだよ!」 「政宗様は幸村が腹を壊さぬように世話をしていただきい」 これは政宗様にしか頼めません。と小十郎は真剣な眼差しで政宗の顔を見ます。実際に大人二人が出て行ってし まうと残るのが政宗と幸村だけなので政宗にしかというか頼めるのは本当に政宗だけなのですが政宗はその罠に 気付く事ができませんでした。 小十郎の真剣な目に政宗は渋々ですが、俺にしか頼めないのならば仕方ないとどこか誇らしげに頷いてみせます。 その政宗の態度に小十郎は立派になりましたね。頭を優しく撫でました。それですっかり気を良くした政宗はす っかり小十郎に丸め込まれてしまいました。 「けれどどうやって鬼ヶ島まで行くのだ?馬は無いではないか」 「それなら問題ないよ。旦那」 不思議そうに首を傾げている幸村に佐助はお空を飛んで行くんだよ。と頭上に広がる青い空は指さしました。 「空を?」 「そう、とりあえずあの人を大凧まで連れてけば俺様が鳥さん使ってお空の直通便ってわけさ」 「馬を借りに町に出るには時間が掛かりすぎるからな…気は乗らんが仕方なかろう」 「旦那達も今度乗っけてあげるからね」 こうして桃太郎という物語の筈なのに鬼退治に意気揚揚と出て行った大人二人に手を振りながら見送る二人の桃 太郎は、なんか上手く誤魔化された気がする。と内心複雑でした。しかも空を飛んでいくという二人にはきっと 旅の途中に犬、猿、雉をお供にする気などさらさらなく子供達の留守番用としてきび団子を使いました。 何処まで物語をきちんと進める気がないのか、と段々と小さくなっていく二人の背中を見ながら俺はあんな大人 にはなるまいと政宗はひとつ大人の階段を昇りながら決意しました。 その日から数日後、大きな荷車に沢山の煌びやかな宝物を引きながら小十郎と佐助は帰ってきました。 二人の姿を見つけた二人の桃太郎はやはり子供だけでは心細かったのでしょう。目尻に涙を浮かべながら走り飛 び着きました。そんな子供達に小十郎と佐助はだたいまと言いながら頭を優しく撫で舞いついてくる子供の背中 をゆるく抱いてあげました。いつの間にか四人はすっかり素敵な家族になっていました。 それから小十郎と佐助が持って帰ってきた宝を使い家の改装増築や、小十郎の畑の拡大、そして新しく水田を作 り子供達にも綺麗な着物を買い揃えました。そして残った宝はきちんと貯金するように家族で話し合い貯金方法 は箪笥貯金にします。鬼を退治したような男が二人とその息子が住んでいるような家に誰が盗みになど入るでし ょうか。いいえ誰も入りません。 こうして四人はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。 おわり 拍手に載せていた桃太郎パロ 桃太郎二人が物凄く脇役臭い…まぁ仕方ない(おい 2008.07.15 ブラウザバックでお戻りください