不覚をとった。 布団の中、起きて一番に感じた悪寒とだるさに小十郎は溜め息をついた。確かにここ最近、疲れてはいた。だがこんなになるまでとは思わなかったのだ。 「片倉さん、朝だよ〜」 声をかけられ、小十郎は起き上がろうとした。しかし体に思うように力が入らない。 「片倉さん?」 いつまでも起きない小十郎を不思議に思って佐助が声をかける。 「今起きる」 辛うじて声を出すと、佐助が目を丸くした。 「待って、起きちゃだめ」 「そういうわけにはいかないだろ」 「片倉さんちょっと寝てて」 「起きろって言ったのはお前だろ」 「朝だよとは言ったけど起きろとは言ってません」 久し振りに佐助が屁理屈を言ったなと思っていると起こしかけた体を布団に寝かされる。 「いいから寝てなよ。声変だよ」 どうやら喉もやられているらしい。額を触る佐助の手は冷たいが気持ちよかった。その心地よさに小十郎はそのまま目を閉じた。 小十郎が眠ったとわかると、佐助は家を飛び出し、急いで政宗のところへ文字通り飛んでいった。 「政宗、政宗!」 「Shut up! 今何時だと……、佐助?」 まだ寝ていた政宗が飛び起き、佐助の胸倉を掴んだところで目が覚めたらしい。 「どうしたんだ? こんな朝早くから」 「なんかさ、片倉さん病気らしいんだ」 「Ah? 小十郎が病気?」 「そう」 「珍しいな。症状は?」 「顔が赤くて体温が高め。声の調子もおかしかった」 「典型的な風邪だな。今はどうしてる?」 「寝てる。かぜってなんか深刻?」 「病の一種だ。しっかり看病してやりゃ大事にはならねぇ」 病と言った途端佐助の表情が曇ったので、そんなに心配するなと政宗は笑った。 「俺が行くか誰か寄越すか」 「あー、うん。俺一人だとなんか怖いし」 そうかと言って政宗が誰が適任かと考える。しかし佐助のことを知っていて病人の世話が出来そうな人物となると、これと言った適任者がいない。 「参ったな。いっそ俺が……、いや今日は最上から使者が来るとか言ってたか」 「政宗?」 「悪いが、無理そうだ。お前に看病の仕方教えてやるから頑張れ」 「え、えー!」 佐助が驚き、無理だと叫ぶ中、政宗は近くの物入れをごそごそと漁る。 「確かここに……」 「ねえ政宗聞いてる? 俺様看病なんて無理だよ!」 「お前がやらないと小十郎は当分苦しむぞ。それでもいいなら……、お、あった」 何かを見つけると、政宗はそれを取り出し、佐助に渡した。巻物のようだ。 「何これ」 「看病の仕方が載ってる。これ見てしっかりやれよ」 「でも」 「いいからもう戻ってやれ。小十郎に黙って出てきたんだろ? お前がいないって気付いたら何やるかわかんねえぞ」 「うー、わかった。もうダメな時はまた来る」 そう言って、佐助は巻物を懐に入れると、庭先で鴉になって帰っていった。 家に帰ると、まだ小十郎は寝ていた。額に触ると、先程より熱くなっている気がする。巻物を広げ、佐助はそれを読む。やると言ったからにはきちんとやらねば。 佐助はすぐに読み終わると、早速盥に水を汲み、そこに手拭いを浸し、固く絞った。それを小十郎の額に乗せ、巻物片手に立ち上がった。 「片倉さん、俺頑張るから」 ふと目が覚めて、やけに明るいなと小十郎は思った。そして次の瞬間に飛び起きた。 「な、昼?」 「あ、片倉さん起きた?」 佐助がそう言って、顔を出してくる。しかし小十郎はそれどころではない。 「なんで起こさなかった!」 「起こすわけないじゃん。声おかしかったし、顔色悪かったんだから。政宗に聞いたけど、かぜなんだって?」 「そうかもしれねェが、これくらいどうってことは」 そう言って立ち上がろうとするが、くらりと視界が回り、膝をついてしまった。そんな小十郎を佐助は慌てて支えた。 「ほら、まともに立てないんじゃん。今日は休んでなって」 「だが」 「政宗にはもう言ったから、大丈夫だって。今日は俺が片倉さんのお世話するから、任せて」 その言葉ほど、小十郎にとって不安なものはない。しかし、どうにも張り切っているらしい佐助に対して何か言えるわけがない。小十郎は佐助に甘いのだ。 「……無理するよな」 「うん。あ、お腹空いてるでしょ? ちょっと待ってて!」 佐助は奥へ一度引っ込むと、何かを持って来た。土鍋のようだが、中に何が入っているのだろうか。佐助が蓋を取ると、中には猫が入っているわけではなく、粥らしきものが入っていた。しかし、なんだか緑色が目立つ。どうも入っているのは葱だけではないらしい。 「佐助、これは……」 「政宗がくれた巻物に、こういうのがいいって書いてあったから、頑張って作ったんだ」 言いながら、佐助は匙でそれをすくい、息を吹きかけて冷ますと、小十郎の口元に持って行った。 「はい」 俗にいう「はい、あーん」の図だが、そんなことは頭から掻き消えるほど、小十郎は迷っていた。緑色が目立つと思ったが、よく見ると黒かったり赤かったりするものも入っている。それが一体なんなのか、見ただけでは分からない。だからこそ、口に入れることを躊躇ってしまう。 佐助が頑張って、初めて一人で作ったものだから、出来れば食べてやりたい。しかし、これを食べて果たして大丈夫なのか。体調が悪化することはないだろうか。 思わずそう考えてしまうのは、相手が元々鴉だからか佐助だからか。 そうしている内に、佐助は首を傾げる。 「食べないの?」 「あ、いや」 「じゃあ、ほら」 促されて、小十郎は腹を決めた。 佐助が頑張って作ったのだ、そこを買おう。前回の茶の件もある。これもきっと美味いはずだ。いやそうであってほしい。少なくとも人体に害はないはずだ。行け小十郎、男は度胸だ! そんなことが頭に過ぎったかどうかはわからないが、小十郎は佐助の差し出す匙を口に含んだ。 「どう?」 佐助が感想を求めるが、小十郎はそれどころではなかった。 苦いのだ。粥の味はするが、その粥の味が霞むほど、何かが苦かった。思い切り噛んだ粒のようなものが恐らく苦いのだろう。しかもその味がいつまでも残る。 「佐助、材料はなんなんだ?」 「えっと、普通のお粥の材料に、薬草が何種類か。一応政宗のくれた巻物通りに作ったから、大丈夫だと思うけど。美味しくない?」 「お前食べたか?」 「うん。あ、そういえばあんまり噛むなって書いてたよ」 もう少し早く言って欲しかった。 「そ、そうか」 「うん。もうちょっと食べる?」 「ああ、貰おう」 薬草が入っているということは、薬代わりでもあるのだろう。早めに治したいので、小十郎はあまり噛まないようにしつつ佐助の作った粥を食べた。折角佐助が己のために作ったものなのだから、全部食べてやりたいというのもあったりなかったり。 佐助に粥を食べさせてもらい、小十郎は横になった。そんな小十郎の額に手を当て、佐助はうーんとうなる。 「熱、下がったかな」 「わからん。だが、早めに治すから」 「頑張ってね」 横になった小十郎の額に水で冷やした手拭いを乗せると、土鍋を持って奥に行った。どうやらきちんと片付けもしているらしい。遠くから水音が聞こえた。 その音を聞きながら、小十郎はなんだか奇妙なことだと思う。 いつも家にいる時は、飯や片付けなどは小十郎がしていた。佐助に任せるのは不安だったからだ。しかし今、佐助はきちんとこなしているようだった。 もう少し、佐助に家のことを任せてもいいか。 夢うつつに考えながら、小十郎は再び意識が途切れた。 再び目覚めると、どうやら夜になってしまったらしい。佐助は近くで何かしている。僅かな灯りから、文机に向かっているのはわかるが、背中しか見えない状況では、何をやっているかはわからない。 「なにやってるんだ?」 出した声は、寝惚けたものになった。 「んー、この前片倉さんがくれた本読んでる」 「そうか」 いくつか本を渡したが、どの本だろうか。 考えていると、佐助がこちらに近付いて来た。 「近くにいるとうつるぞ」 「大丈夫。俺様からすだから人の風邪なんてきっとうつらないよ」 「半分は人間だろ。だったら」 「それに、俺が片倉さんの傍にいたいし」 「そうか」 「お腹空いた?」 「いや、寝っぱなしだからか、そんなには空いてない」 「辛いとかない?」 「平気だ」 「寒いとかは?」 「少しだけな。だが大丈夫だ。ありがとな」 そう言って、小十郎が佐助に手を伸ばす。その手を取って、佐助はへらりと笑う。 「不謹慎だけどさ、こういう形でも、片倉さんの役に立てて嬉しいんだ」 「そうか」 「でも、早く良くなってね。ずっとこれは無理だし」 「なんでだ?」 「なんだかさ、片倉さんがこうやって寝っ放しだと、寂しいし悲しいんだ」 「すまない」 「謝らなくていいよ。明日は元気になってね」 「ああ」 しっかり頷くと、佐助はそうだと小さく呟く。 「一緒に寝ていい?」 「どうしたんだ」 「だって片倉さん寒いって言ってたでしょ。俺体温高いみたいだし、湯たんぽ」 「自分で言うな」 笑いながらも、小十郎は布団の端を持ち上げた。そこに佐助が滑り込み、小十郎に引っ付く。確かに佐助の体は温かく、暖を取るには丁度良さそうだ。そう思いながら、小十郎は目を閉じた。 「おやすみ」 佐助がそう言ったと思った直後に、寝息が聞こえてくる。 今日は慣れないことをやったのだ。きっと疲れたのだろう。今度休みを貰ったら、礼として何かやってやろう。何がいいだろうか、二人で何処か遊びに行くか。 そんなことを考えながら、ふと小十郎は起き上がり、文机の傍にある灯りを消し、再び布団に戻ると、すっかり寝てしまった佐助をしっかり抱き締め、もう一度目を閉じた。 |
※えーと、すみませんhaloさん。砂糖どころか、砂吐けるかどうかも微妙な甘さになりました。
ほ、本人的には精一杯甘くしました!
ラブラブって言われたのに、微妙に小十郎が酷い目にあってます。すみません。
にゃんこのお礼がこんなので申し訳ないです。でもにゃんこは毎日可愛がってます!
本当ににゃんこ佐助ありがとうございます!!大事にします。
これからもどうぞよろしくお願いしますv※
haloの感想
やったー!黒葉さんの鴉ちゃんを頂戴しましたよwww
うちのにゃんこ佐助と交換でこんな可愛い鴉ちゃんが!!
正直こじゅにこのかわいらしい湯たんぽはもったいない!!
私が抱きしめたい!!(こら
そして不謹慎にも風邪引いて寝込んだ小十郎が最高に可愛らしいwと思ってしまいました!
黒葉さんありがとうございますwwこれからもよろしくお願いします!!