「景綱、あんたネコを飼いなさい」
「……は?」
 突然やって来て顔を見るなりそういう姉喜多に、小十郎はたっぷり十数えて声をあげた。
「ネコを飼いなさいと言ったのです」
「姉上、何故そのようなことを」
「実は近所に住んでいるはるさんのネコが子を産んだのよ」
「はあ、それで?」
「そのネコが赤茶の珍しい毛色のネコでね、ほとんどがその毛色だったんだけど、二匹だけ橙色の毛色のネコが生まれてしまったの」
「橙、それはまた」
 随分珍しい色だ。
「大体貰い手が決まったんだけど、その二匹だけはどうしても貰い手がなくて」
「それで、私に飼えと?」
「二匹飼えなんて無茶は言いません。それに片方は既にはるさんの知り合いの方が引き取ってくださるらしいから、では残り一匹はうちの景綱がと言っておいたの」
「……言っておいた?」
「ええ」
「姉上が飼うのは」
「あら景綱、あなた私が動物の世話が大の苦手だと知っていて、ネコを飼えと?」
 そう言われ、幼少の頃を思い出す。金魚鉢の中では狭かろうと言って金魚を池に放ち、土の中は暑かろうと言って蟻の巣に水を注ぎ込むようなこの人物に、果たしてネコの世話が出来るか。否。いや、出来るかもしれないが、そんな賭けのようなことをしたくはない。
「その様子だと、もう断ることは出来ないのですね?」
「ええ」
「わかりました。では飼いましょう。それでそのネコは」
「良かったわ。実はもう連れて来たの!」
 籠を差し出され、つい受け取ってしまった。しっかりとした重さと、中から微かに聞こえる鳴き声から、中にネコが入っているのだろうことがわかる。
「名前は景綱がつけなさい。それじゃあ、また遊びに来るわね!」
 そして、嵐のように去って行った姉を呆然と見送るしかなかった。
 少しして、このままではネコも窮屈だろうと気付き、小十郎は籠を畳の上に置き、蓋を開けた。すると、確かに橙色のネコがくるりと丸まっている。どういった具合か、顔には緑色の毛が筋となって模様を作っている。心なしか震えている気がするのは、親元を離れて不安だからだろうか。
 そっと抱き上げると、ネコはこちらを見てびくりとした。わたわたと逃げ出そうとしているのをしっかり抱きかかえ、家人のところに行く。
「すまないが、誰かネコを飼ったことがあるものはいるか」
「あれ小十郎様、どうなさったんで」
「姉上がネコを飼えと押し付けてきてな。世話がわからないから、誰か知らないか」
「飼ったことありますよ。しかし、随分と珍しい毛色で」
「だから貰い手がなかったらしい。すまないが、少しの間見てもらえるか?」
「へえ。ではご夕飯の時までは」
「それと、あとでいいからネコの飼い方を少し教えてもらえるか」
「一向に構いません」
「そうか。頼む」
 家人にネコを渡そうとすると、今度はネコは小十郎から離れない。
「おい、こら」
「あれまあ、恐がってますねえ。よしよし、恐いことないからなー」
 しかし、ネコは着物に爪を立てて、決して離れようとしない。
「困りましたねえ」
「小十郎様、気に入られましたかね」
「いや、どうだろうねえ」
「どうすりゃいい?」
「暫く放置しておくしかございませんねえ。まあその内、ネコも慣れて周囲を歩き始めると思いますで」
「そうか」
 仕方なくネコを連れて部屋に戻り、書類仕事を片付ける。方々への文も出さねばと考えつつ、なんとなく右手でネコを撫でた。すると、ネコは一瞬体を強張らせたが、すぐに力を抜いたらしい。さらりさらりと撫でていると、なんだか落ち着く。
 そのままネコを撫でつつ仕事を片付けると、ネコは小十郎の膝の上で寝ていた。
「ずっと緊張してたものな」
 言いつつ、ふと名前を決めていなかったと気付く。
「名前、か」
 何かいい名前を考えてやろう。








「小十郎様、小十郎様!」
 家人に声をかけられ、小十郎は目を開けた。ここで、どうやら寝ていたらしいと気付く。
「どうかしたか」
「どうかしたかもこうしたも! 小十郎様、そのお子様は一体、何処の方で?」
「子ども?」
 首を傾げつつ、腕の中を見ると、小十郎は固まった。
 確かに、そこには子どもが寝ていた。髪は橙、だけならまだ良かったが、何故かその髪の中に、ネコの耳のようなものがある。更によく見れば、尻の辺りからは尻尾が伸びている。
「な、なんだこりゃ」
「それはこちらの台詞でございます」
 混乱している内に、その子どもがゆっくりと目を開けた。猫の目のようだと思っていると、それはこちらをしっかりと捉え、そして。
「うにゃ?」
 首を傾げた。
「お前、何処から来た?」
 とりあえず小十郎が声をかけると、その子どもはぷるぷると首を振る。
「名前はなんだ?」
「さすけ」
「というか、何処から入った?」
「ずっといっしょにいたよ」
「は?」
「かげつにゃさん、てがきもちよかったからねちゃった」
 舌っ足らずな口調で話す子どもを見ていて、ふと小十郎は気づいた。
「お前、もしかしてあのネコか?」
「小十郎様、いきなり何を」
「あのネコ、顔に緑色の筋が入ってた。丁度こんな風に」
 そう、子どもの頬と鼻に、緑色の筋が入っている。それは丁度、ネコの顔の模様とそっくりだ。
「しかし、だとしてどうやってネコが人の子に」
「わからん。それでお前、さすけと言ったか、ネコなのか?」
 すると、子どもは勢いよく答えた。
「うん!」
 その返答を聞きつつ、どうやら喜多が持って来たのはただのネコではなかったらしいと、この時片倉邸の誰もが思った。






某Hさんがネコじゃらしを構えて顔をだらしなく緩めているナイスな小十郎を描いてくださったので、
そのお礼っぽいもの。ほとんど佐助じゃなくてネコかよ!って怒られそうなので、こそっと書いてこそっと放置。
心当たりのある方はサクッと持って帰ってくだされ。




haloのいらん感想

ちょっwwwwwwかげつにゃ!かげつにゃ!ひゃっほーい!!
黒葉さんまじで大好きだぁぁぁあああああ!!!
うちのニャンコの優秀っぷりには脱帽です。こんな素敵なもの持って帰ってきた!!

黒葉本当にありがとうございまぁあああす!!!






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