「いいんじゃねぇの?」 
「は?!アンタそれ本気で言っての!!」 

思ってもなかった相手の発言に体を机の上に乗り出すようにした佐助は、その拍子に手をカップに当てカチャリ
と音を起てた。 
佐助は今、全国チェーンのファミレスに友人である政宗を連れてきて、とある事を相談している最中であった。 

「いいんじゃねぇの。だから」 
「しんじらんねぇ。アンタは絶対反対だと思ってたから」 
「何で俺が『真田がうちの小十郎を好きだから告白したい』ってのに反対しなくちゃいけねぇんだ」 

佐助は政宗に相談しようとしているのは、今しがた政宗が口にした理由以外の何ものでもない。 






・The hardship person sings 






元々、事の始めは一週間ほど前に佐助の幼馴染で腐れ縁な真田幸村が佐助に「片倉殿をお慕いしているのだが」
と脈絡も無くいきなり言い出したことにあった。 
それを聞いた佐助は幸村の言う“お慕いしている”というのがただ尊敬しているとか、憧れているの意味だと思
い簡単に、そりゃぁよかったね。と適当に相槌を打った。 
しかしそんな佐助を余所に勝手に話を進める幸村は、顔を赤くしながら不器用にも懸命に佐助にどのように片倉
殿をお慕いしているのかを説明した。 
話を聞いているうちに佐助は己の認識が間違いだと知り、幸村の言う“お慕い”がイコール恋愛感情だとという
事を知った。 奥手な幸村が誰かを好きになるのは大いに結構だと、佐助は思う。 


しかし、しかしだ。 


相手が問題だ。佐助は顔を赤らめたままの幸村の目の前で頭を抱えてみせた。 

幸村の言う片倉殿とはたぶん、いや間違いなく佐助の知っている片倉小十郎の事なのだろう。 

片倉小十郎という男の事を佐助は脳裏に思い浮かべてみた。 

小十郎というのは佐助の知人の中でもしかしたら一番目か二番目に身長の高い人物ではなかったか。この際身長
はいいだろう。ならば顔はどうだ。 
顔はそれはそれは男前で切れ長の目は人を殺せそうだが涼しげで、恐ろしく釣り上がった短めの眉も中々に箔が
ある。それに何より綺麗に掻き上げられた見事なオールバックに左頬にどうしたのか大きな傷がある。

堅気じゃねぇな。これは佐助の小十郎を見た時の第一印象だ。 

でもまぁ、人は顔じゃない。性格も以外に面倒見がよく少々、いやかなり短気だが一本気で筋に通っていて、内
面からのいい男っぷりだ。きっとこれまでの人生で、女という女からさぞやモテただろう。と佐助は思う。

畜生。羨ましすぎる。 

小十郎の事を考えている内に段々と佐助の顔が険しくなったのか、幸村は情けない顔をしながら、佐助は片倉殿
が嫌いか?と心配そうに聞いてきた。 
いや旦那。俺様あの人嫌いじゃないけどね、でも何で片倉さんなのかなぁって思ってさ。佐助は幸村の明らかに
覇気の無い声に慌て誤魔化すように言葉を紡いだ。佐助は小十郎が好きか嫌いかでいったら、苦手だった。 

佐助の問いに幸村は少しだけ考えるような素振りをしてみせ、そしてふわりと花でも咲きそうな幸せな顔をしな
がら、素敵なお方でござる。という。ごめんよ旦那。意味が解らない。佐助は心の中で土下座をした。 


その後も散々片倉小十郎の素晴らしさを幸村から聞かされた佐助は半ばげっそりとし朦朧としているうちに、気
持ちを伝えたいから出来れば日にちとか場所とかを見繕ってくれ。と頼まれた。 
佐助がこの時もし、冷静な判断が出来ていたならきっと全力で断っていただろう。 





そして、時間は過ぎ今に至る。佐助は最後の望みを懸けて友人の伊達政宗に相談をしている。 
政宗は小十郎を昔からの知り合いで、佐助や幸村に小十郎を紹介した張本人である。小十郎は政宗の世話係りと
いうか管理役のような飼育係のような事をしている。 
そして政宗自身も小十郎を己の一部のように思い信頼している。佐助から見た個人的な意見で言うと小十郎はそ
うではないが政宗はきっと凄く不純な意味で小十郎の事を己の一部だと思っているようである。本当かどうかは
確かめたくはないが。 

「だって、政宗あんた、うちの旦那の事好きなんじゃねぇのかよ?それでいいの?!」 
「好きだけど?でも別にそれは反対する理由にはなんねぇよ」 

政宗は幸村のことが好きなのだと言う。これは最早、政宗と幸村を知る人間ならば皆が知っている周知の事実と
なっていて今更驚く人間など誰もいない。 
もし驚くとすれば好かれている当事者の幸村だけではないだろうか。彼は恐らく自分が好かれているなどと微塵
も思っていないだろう。 

「好きな子が自分の身近な人を好きになるのとか、
 もしかしたらくっついちゃたらとか、ちょっとは気になるでしょーが」 
「まぁ、これが別の奴ならそうかも知れんが、真田の好きになったのが小十郎ならNo problemだ」 
「なんでだよ!?」 
「小十郎は俺の半身だ。右目だ。右腕だ。寧ろ俺の一部だ。あいつの物は俺の物であいつ自身も俺の物だ」 
「アンタ何処のジャイアンだよ・・・」 
「ふたりが上手く出来上がったら、真田と俺の家に住めばいい。俺は願ったり叶ったりだ」 
「・・・じゃ、じゃあもし出来上がって。
 一緒住んで、隣の部屋でふたりがその、や・・ヤりはじめたりしたらアンタ平気なのかよ・・・」 
「・・・・・・・・・そりゃ」 
「そりゃ、きついだろ。ね?だからもうちょっと色々考えようよ?」 
「いや、そりゃ俺も混ざりてぇな」 


「ごめん。俺相談する相手間違ったわ。忘れてくれ。俺様帰るから」 


政宗の明らかに不適切な答えに佐助はガタリと立ち上がり伝票を握りしめそのまま全力が帰ってしまうと思った。 

こんな変態に何かを頼ろうとした己が一番馬鹿だった。と佐助は許されるのならこのまま少し泣いてしまいたく
なった。明らかに相談相手の人選ミスだ。 
これならばきっと軽すぎる元親とか慶次とかに相談したほうがまだ何とかなったかもしれない。 
そうしてそそくさと帰ろうとした佐助に政宗は腕を掴んでそれを阻んだ。何言ってんだ。話はまだ終わってねぇ
よ。そう言いながら腕を掴んだまま佐助に席に戻れと顎で示す。 

「で?いつ小十郎の予定空けさせればいい?」 
「・・・本当に会わせんのかよ?」 
「ったりまえだ。真田が言ってんだしねぇ訳にはいかんだろう。それに」 
「・・・それに?」 
「結局のところ外野がどうの言った所で、小十郎が真田を受け入れるかは本人次第だろうが」 

「・・・まさかの真面目発言」 

「まぁ。前向きに考えろって口添えはするがな」 
「アンタがそれを片倉さんに言うとあの人断れない気がするんだけど!!!」 
「あぁー。本当に俺混ぜてくんねぇかなぁ」 
「ひぃいい!アンタ最悪だ!」 
「理想は俺が小十郎には上で真田にはし・・・・・・」 

うっとりと危険な事を言いかけた政宗の口を佐助は慌てて塞いだ。止めてくれここはファミレスだ。そして俺に
そんなセックスの時の理想のポジションなんて語ってくれるな。 
佐助は本気で己の相談相手の選択の間違いを悔やんだ。佐助は政宗の事をもっとまともな人間だと思っていた。
もしかしたら目の前のこの男が一番変態なのでは無いだろうかと佐助は思わず見尻に涙が浮かぶのを止めれなか
った。 こんな事ならば、面倒くさがらずに直接小十郎になりに尋ねた方がまだどうにかなったかも知れない。
佐助はそう思わずにはいれなかった。 

「大体、アンタは何で真田と小十郎の事をそんなに反対してんだ」 
「・・・反対はしてねぇよ。たださぁ」 
「ただ?」 
「・・絶対に面倒事に巻き込まれる気がするからさ」 

それで無くとも日常的に幸村のお守のような事をさせられてるのだ。それを更に男同士の恋愛相談などされたの
では堪った物ではない。と佐助は大きく息を吐いてみせた。 
俺様だって人の恋路の心配するくらいなら自分も可愛い女の子と恋愛とかしてぇよ。とぼやきながらすっかり冷
えたコーヒーに口を付ける。 
その佐助の情けない顔で言う情けない言葉を政宗は口角を片方だけ上げ静かに笑いながら、安心しろと。遮った。 

「え?」 
「お前はもう・・・充分に巻き込まれてる」 

「・・・俺様さ、おたくらと縁切っていいですかね?」 

諦めろ。といとも簡単に言い放った政宗は人の悪い笑みを浮かべると、今日はいい話を聞かせてもらったから俺
が奢る。と気前良く佐助が握ったままにしていた伝票を手の間から抜き取った。 
奢ると言っても注文したのはお互いにドリンクバーだけなので大した金額ではない。佐助はそんな楽しそうな政
宗とは真逆に疲れきったような顔をしている。 

「で?いつにする。ふたり会わすの」 
「・・・・・・・・・もういつでもいいんじゃね」 
「じゃあ。来週の週末な。お前適当な店取っとけよ」 
「え?俺が?アンタしろよ。乗り気なんだからアンタ仕切ろよ」 
「いいのか?それなら俺は全力でふたりくっ付けるぜ」 
「・・・・・・・・・」 
「週明けの真田からのアンタへの第一声は
 『某、片倉殿とお付き合いできるようになったでござるぅ』だろうな」 
「・・・モノマネとかしないでくんない?わかったよ。やるよ。本当に・・・はぁ」 
「アンタは本当に疲れた顔が似合うな」 
「誉め言葉じゃないからそれ」 


かくして、当事者の居ぬ間に運命の日は決ってしまった。しかも当事者である片倉小十郎はそんな事になってい
る等ときっと微塵も思っていないだろう。 


佐助は小十郎にそれとなく、できればお断りとかした方がいいと思う。とか言ってみようかな、と考えている。
しかし非常に残念な事に佐助自身が小十郎に苦手意識があった為、連絡先などを知らないので直接何か働きかけ
る事もできない。 
目の前の男に連絡先を聞くのも一つの手ではあるだろうが、察しの良い政宗の事だろう。そんな事を聞いたら確
実に妨害をしてくるに違いない。佐助の一番の誤算は政宗が反対してくれる物をばっかり思っていた事だ。 
これは来週までに何か考えておかねばなるまい。と表面は疲れた顔のまま必死に脳を回転させ何か良い案はない
かと思案し始めた。 


ここでひとつだけ、誤解が無いように言っておかねばならない事がある。佐助は別に幸村と小十郎が付き合う事
には少しも反対ではない。 
前にも言ったが奥手な幸村が誰かを好きになるのは大いに賛成だ。だがしかし、その所為で明らかに佐助自身へ
の負担が多大に回ってくる事は片想いの相手の事や目の前の最早、変態といっても過言では無いだろう政宗の事
を見れば明らかである。 
そんな面倒事をはいそうですか。と受けれるかという話である。だから別に友人がホモでも変態でもヤクザでも
全く問題ない。幼馴染がヤクザに恋をしたって本当は大手を振って応援してやりたい。 

けれど、それは佐助に迷惑をかけない場合の話である。できることならば遠くの席から傍観している位が非常に
望ましいと佐助は切実の思った。 


だがその望みはとても叶いそうにない。佐助は他県にでも引っ越そうかとファミレスの壁に掛かっている安っぽ
い南国の浜辺の絵を眺めながら考えた。






おわり








これはユキコジュです(強調

幸村は回想の人だし小十郎に至っては名前だけだけどユキコジュです。
私は元々バサラにはまったきっかけがダテサスなので伊達と佐助の会話が物凄く好きなのです。
私の書く話に伊達が出るのはhaloの愛です。


もしかしたら続編ある・・・かも?笑


2008.04.07





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