○◎これでも同じベッドで毎日寝てます◎○





「ねぇ。ねぇって」 

部屋の明かりを落としてベッドヘッドのスタンドの明かりを一番小さいものにしているために薄っすらと明るい
枕元でライトの灯りが髪にあたって赤みが増した橙のそれをもそもそと動かしながら佐助は隣にいる者の肩を揺すった。 
ねぇ。ちょっと起きてる癖に返事くらいしろよ、佐助はこれっぽちも反応を示さない恋人こと片倉小十郎の鼻をつまんだ。 

「・・・あぁ?ぅるっせぇな。俺は眠いんだよ」 

鼻を摘まれた男は佐助の手を叩き落しながら首だけを動かし佐助をいつもの倍ほど怖い顔で睨みつけた。
どうやら本当に眠たいようだ。 

「かたくらさん。いい?」 
「ダメだ」 

小十郎の顔がこちらを向いたのをいい事に佐助は甘えるようにに顔を覗き込みながら強請った。 
すると小十郎のほうは佐助が、「いい?」の最後の“い”を言い終わる前にダメだと即答した。
むしろフライング気味な速さである。 

「ええー。随分とごぶさっぶ!」 

更に身を寄せようとした佐助に小十郎は心底うざそうな顔をしながら日頃からよく喋る口を手で叩くようにしながら押えつけた。 

「随分っても・・・あー五日くらいだろうが。とにかくダメだ」 
「むぅう。なんでよ。三十代って一番こういうことを楽しめる時期でしょうが。せっかく俺様乗り気なのに」 
「知るか。死ね、ひとりで犬にでも乗ってろ。・・・明日は体育祭の全体練習だがあるんでな」 

小十郎はこんな怖い顔をしていてもこれでも立派に高校の教師で日頃は教鞭をふるっている。 
それが秋も大分と近づいてくる近頃はもうすぐある体育祭の練習で生徒達と共にグランドに出て他の教師達と共に
体育祭の練習をする。 元々スポーツが活発な学校ではあるが毎年体育祭だけは無駄に力の入った熱いものになっている。 

「あー。あそこの体育祭は鬼だもんね」 

でも犬ってひどくない?と言う佐助は一年前に小十郎のいる高校を卒業した生徒である。 
佐助がいた頃の体育祭が何だかんだで一番熱くて激しく辛い体育祭で最早伝説となりかけるまでだったらしい。
それは主に佐助の友人達の原因であるとかないとか。 

「練習なら仕方ないか。じゃー俺が下でもいいよ?」 
「いらん。きつい、眠い。それにめんどくせー」 
「めんどくせぇ?!倦怠期?マンネリの末の倦怠期!?」 
「ああ。それだそれだ。倦怠期だ。だからせん。寝る」 

隣でぎゃあぎゃあと喚き散らす佐助に小十郎は心底うんざりとした顔をした。どうしてこれはいつもこんなにテン
ションが高いのだろう。 人間毎日ここまでテンション高く生きていけたら幸せだろうと、小十郎は思った。まぁ小
十郎自身は願い下げだが。そうこうしている間にも佐助はゆさゆさと横になっている小十郎の体を揺すっている。
人間というのは数年の間にここまで変われるものなのだなと小十郎はここ最近富に思うときがある。 付き合いだし
た当初の佐助は、それはそれは、というほどそこまで可愛くはなかったが、まぁ素直で、まぁまぁ常識人で、遠慮も
あったのだろうが今のように寝てる人間を起こしてまで盛るようなやつではなかった筈だ。 
それが今ではどうだ、無理だと言っているにも関わらず今にも圧し掛かってきそうな勢いになっているではないか。 

「はぁ。昔は可愛かったのにな・・・」 
「今でも充分可愛いでしょ。だって俺様よ?」 
「はぁ・・・」 
「溜息吐くと幸せ逃げちゃいますよ」 
「・・・・・・・・・」 

ニコニコと満面の笑みを浮かべながら佐助はいつの間にか横になっている小十郎の上に乗り上げている。

どうやら引く気はないらしい。 

「・・・さると・・いや佐助」 
「おや名前でなんてめずらしい。なぁに?その気になった?」 

珍しく名前を呼んだ小十郎に気分を良くしたのか、それとも小十郎が名前で呼んだのを佐助が望んでるいる事に対し
ての許可ととったのか、それでなくともニコニコしていた顔を更にだらしなく緩ませた佐助は次に小十郎が発した言
葉に一瞬にして笑顔を完全に消してしまった。 

「今夜する代わりに今後一切しないのと、今夜しないで週末まで待ってこれからもするのと
 どっちがイイか選ばせてやる」 
「・・・はい?」 
「だから、てめぇ今日どうしてもしてぇなら付き合ってやらんこともないが、が。今後二度とてめぇとは寝ん」 

小十郎のその言葉に、ええぇええ!!と悲痛な声を上げた佐助はそんなぁあ!と頭を抱えてしまった。小十郎は自分
の腹の上で頭を抱え蹲って、うんうんと呻いている佐助を冷ややかな眼差しで見やりながらそこまでしたかったのか
と半ば呆れた心地で溜息を吐いた。
おのれが佐助と同じくらいのころここまで盛った事があったかね?と思わず考えてしまい勢いだ。 

「・・・・・・しません。寝ます。大人しく」 
「よし」 

のそのそと小十郎の上から降りながら明らかに肩を落とした様子の佐助は矢張りのそのそとした動きで小十郎の横の空
いているスペースに横になって布団を被った。グスンと鼻を啜る音が聞こえるような気がするがここで甘やかしたり優
しくすると付け上がるのが猿飛佐助だということをもう知り尽くしてしまっている小十郎は決して声をかける事無く
これでようやく寝れると目を閉じた。 

「・・・ねぇ」 
「・・・・・・」 

まだ何かあるのかと目を閉じた瞬間に問い掛けられ小十郎は半ば本気でぶん殴ってやろうかと思った。 

「俺のこと愛してないでしょ?」 
「・・・」 

何をくだらない事を。と小十郎は目を細めながらスタンドのオレンジの灯りに照らされたて元から赤み掛かった髪を更に
色濃くして佐助が微妙に体を動かすたびにキラキラと輝くようだ。 佐助は眉間に皺を寄せた小十郎をじっと見詰め問いの
答えを待っている。その待っている顔は眉をハの字にし唇を尖らせ、とても情けない顔になっている。 

「・・・・・・」 
「・・・・・・」 
「・・・愛してないこた無い事もない様な気もするが、たぶん気のせいだと思う」 
「気のせいじゃあダメでしょうが!!」 
「・・・で?何が言いてぇんだ」 
「へ。ああ愛しい俺様が横でこんなに悶々としてるのにねぎらいの一つもないもんかね。って思っただけさ」 

ねぎらい。小十郎はそう佐助が言った言葉を繰り返し瞬きを一回した後にもう一度佐助の目を見ながらねぎらい。と呟いた。 

「『しかたねぇな。手で我慢しろよ』とかさ」 
「・・・・・・言って欲しいのか」 
「・・・ま。そりゃーね」 

そうか。とポツリと小十郎は一言こぼすとそのまま何かを考えるようにし黙ってしまった。それをマジかで見守る佐助は
お。これは、と思い心なしか期待の眼差しを小十郎に向けながらもここで下手をして興が冷めてはもったいないと大人し
く小十郎が何か言うのを待つことにした。 それから沈黙が数秒だけ続くと小十郎は逸らしていた視線をもう一度佐助に向
けるとこれまでで最も上等な笑みを佐助向けた。
佐助もその笑顔に心を躍らせながら釣られてヘラヘラと顔の筋肉を緩ませる。 

そして小十郎はそんな笑顔のまま片腕を綺麗に掛けていた布団から出すとある方向をスゥっと指差した。 



「トイレはドアを出てすぐ近くにありますので、あちらでご自分の指圧でどうぞ」 



そう笑顔のまま丁寧に言った小十郎はいい終わるや否や腕をそそくさと布団の中に仕舞いくるっと佐助に背を向け佐助に聞
こえるか聞こえないかの微かな声で、寝る。と言った。 


「・・・・・・・・」 

「ぇぇええええ!!!何今のねぎらい?!ちょっとぉお!キャラとか考えようぜおっさん!」 


あまりの突然な事に直に反応できなかった佐助はひとつ間を置いた後、夜遅いとか近所迷惑だとか全く考えずに叫びながらガ
バっと勢いよく起き上がった。 そのまま小十郎の肩に手をかけこちらを向かせようを力を入れようとした瞬間佐助の耳に規則
正しい寝息が聞こえてきた。 

「は?」 

まさか今の数秒の間に寝たなんて事はあるまいなと佐助は見を乗り出しこちらに背を向けた小十郎の顔を覗き込んだ。 
小十郎は狸寝入りでも何でもなく本当に眠っているようだった。

「・・・なんで寝れんのさ!このタイミングで!」 

きぃいい!と言いながらも隣から本格的な寝息が聞こえてくるから佐助は、はぁと息を落した。完全に寝入った人間を叩き起こ
してまでして盛る趣味は佐助にはない。 かといって先ほど丁寧に勧められた通りにトイレに駆け込むのも何だか負けたような
気がしてならない。 

「いいよもう。こうなったら週末にギャフン、じゃなくてヒィヒィ言わせてやる。ここは本気だ」 

肩を落しながらもそうひとり呟いた佐助はぐっと拳を握り締めながら何かを決意するように、うん。と頷いて見せた。 
どんなに気合を入れたところで寝ている人間の横でそんな事をしてもいまいち真剣実に欠けるがこそは気付かない振りをした佐
助はそのままモソモソと小十郎の横の空いたスペースに横になり肩まで布団を被った。 そして自分に背を向けたまま寝ている
小十郎の佐助より少し大きな背中にわざと嫌がらせのようにまとわりついてみた。タコの夢でも見やがれ。とか何とかボソボソ
呟きながら無理やり腕を回してさらにくっつくようにする。 






しかし、佐助はこのときまだ知らなかった。小十郎に言う週末が正に体育祭の本番に日であると。 











おわり 



拍手に載せてました。 
佐助が高校を卒業してます。だから2,3年後ですね。そして何気にちゃっかり同棲です。 
ラブラブです。とくに佐助は小十郎にメロメロです。 

2007.10.24
2008.03.13ちょっとだけ加筆、修正しました。