最近妙に洗濯物が増えたような気がする。夏場だからだろうか、佐助はそう思いながらハンガーに洗濯物を干している。 手にしたカッターシャツをパンと弾みをつけて延ばしハンガーにかけたそれを両手で叩きながら皺を伸ばしてく。 そしてふと気付いた。 「あれ。これ俺のカッターじゃないじゃん」 佐助の制服のカッターよりもひと回り大きなカッターシャツは学制服のそれとは明らかに違うデザインの物でこん な物を着てこの家に出入りする人間は最早ひとりしか心当たりが無かった。 そこで佐助は洗濯物が増えたような気がしたのは錯覚ではないとわかった。週の何日かは必ず泊まりに来ている 片倉が洗濯物を出して帰っているのだろう。 更にこれも最近というか先日気付いたのだが、あの男、人のタンスの引出し1つを自分の着替え入れにしているよ うだ。片倉は風呂に入ると言いながらまるで自分の家のようにタンスを開け着替えを出してタオルと一緒に風呂 に持って行ったのだ。それを見たとき驚いてすぐにリアクションできなかったが、片倉が風呂に入っている間にタ ンスを開けてみると中には数日分の着替えが入っていてこれまた驚いた物だ。 その後上がってきた片倉に聞いてみると男はなんで無いようにクローゼットにはスーツ上下入れているという。 なんという事だ。このおっさんはうちに移住する気か!? いつもこと片倉に関しては佐助の知らぬ間に物事が進んでいる気がする。これは佐助が抜けているのか、それとも 片倉が佐助を出し抜くのが上手いのか。そんなことを考えながら佐助はふと干しつづけている洗濯物に目をやると 手にしているのは問題の片倉の下着で。一瞬脳裏に『おくさまは女○生』というマンガのタイトルがよぎって背筋 に悪寒が走った。そんなの冗談ではない。とりあえず付き合うのを前提に考えて生活はしているものの、あくまで も前提でそんなつもりは毛頭ないつもりである。 正直なところは大分絆されてなんかもうどうでもいいかもとか思っていた佐助だが今、改めて思いなおした。 俺は片倉の奥さんにはなる気はありません!! ○◎触れたいが口づけたいにかわるとき◎○ 「だれもお前を嫁になんかしたくねぇよ」 今日も今日とて普通に「ただいま」と言って片倉は佐助の家に帰宅してきた。たまに政宗をずっと放置したままでいい のか心配になるが片倉曰く「今は多感な時期だから学校と家と両方顔を合わせて無駄な拘束感を与えたくない」らしい。 じゃあ俺様はどうなるのよ。という話だがそれはそれ、これはこれ。お前と政宗さまは違うとこの男は言った。 それでも教師かてめぇは。と批難をすると片倉は平然としながら 「別にお前の前で教師面した事なんてないぜ」 ときたもんだ。教師でいてくれ。佐助は切実に思った。 「大体どこからの発想で俺がお前を娶る必要がある」 「えーだって気付いたらあんたの着替え洗濯してんだもん」 「アホが」 「えー」 「他人の服洗濯したくらいで嫁になるんなら世の中のクリーニング屋はみんな誰かの嫁になってるだろうが」 いや誰もそこまで大規模な事言ってないんだけどな。と佐助は思いながら、むぅっと眉間に皺を寄せる。 片倉はそんな佐助の様子を一切無視しながらどうせ娶るならと言う。 「どうせ娶るなら物静かな、お前のように喚かん女がいい」 「は!?俺だって小顔でおっぱいの大きな可愛い子がお嫁さんがいいよ!」 ほぉ。てめぇは巨乳派か。と片倉に真顔で言われた佐助は思わず自宅アパートのベランダから飛び降りたくなった。 休みの日も用があれば学校に行かなきゃならないなんて教師って難儀な仕事だね。そう言いながら佐助は作り置き しといたカレーをふたり分用意しテーブルに出した。学生の一人暮らしで節約しなきゃいけないのにエンゲル係数 が増えている事実に佐助は冷蔵庫を開けるたびに涙が出そうになる。色々事情があるとはいえ引き取ってもらった 身の上に更に一人暮らしまでさせてもらっている。信玄にこれではあわせる顔が無い。 食費を目の前の男に請求していいだろうか。なんてことを佐助はカレーをスプーンで混ぜながら考えた。 「うまい」 「そりゃどうも。なんかさ」 「ん?」 「せんせ。最近口数ふえたよね」 そうか、とカレーを黙々と口に入れながら不思議そうな顔をしている片倉にそうだよ、と佐助は言った。 「それに・・・いいや、なんでもない」 「あ?なんだ言えよ」 「なんでもないよ」 最近あんまり顔が怖くない。なんてちょっと恐ろしくって言えない。佐助は適当に誤魔化しながら水いる?と尋ねた。 片倉は腑に落ちないという顔をしながらもグラスを傾けた。こういうときでも実感するのだが最近、片倉とコミュニ ケーションが取れているのである。前は言っている意味がわからなくて、やってることも理解できなくて、稀に片倉の 喋っていることが宇宙語に聞こえたりしていたのに今はちゃんと言葉のキャッチボールができるのだ。 変ったな。と思った。 片倉が変ったのか佐助が変ったのかはよくわからないが、ただそんな気がした。 「あ」 「え?なに具でかいの嫌い?」 「いや大きいほうがいい。じゃなくて」 急に動きを止めた片倉を怪訝に見やると、みるみる内に眉間に皺が寄っていく。 そのうち皺が取れなくなるのではないかと偶に不安に思う。 「今、お前『先生』つったろ」 「へ。言ったっけ?」 「言った。いうなって言ったろうが」 俺はてめぇの先生じゃない。そう言い放つとカレーを食べる手の動きを再開させ先ほど勝手につけたテレビでニュースを 見ながらカレーを食べ始めた。前言撤回。佐助はそう思った。 きちんとコミュニケーション取れているのは気のせいだったようだ。 (あんた。俺の担任じゃん) てめぇの先生じゃないなんてこと無いだろ。言っても無意味なのわかってるから言わないけど。 大体なんで先生って呼ばれるのが嫌なんだよ。意味わかんねぇなこれも宇宙語か。佐助は目の前の男がもし宇宙人 でも未来人でも超能力者でもはたまた人外魔境でも少しも不思議じゃない気がした。これは片倉に慣れたからこ その心境である。カチャカチャとスプーンを使う音とテレビから流れてくるアナウンサーの読み上げるニュース がまるで室内BGMのようになっている。基本的に佐助と片倉とがふたりでいるときに会話は殆ど無い。最初は 佐助が何とか会話を繋げようと奮闘していたのだが近頃ではそれを佐助はしない。別に黙っていても気まずくな らないという事に気付いたからだ。どちらかが何か思いついたり共通の話題がない限り互いに話し掛ける事も無 く自分のしたい事をするのだ。 「あ。・・・いやいい」 「なによ」 「・・・チキンカレーより、ポークカレーのほうがいい」 「・・・・・・・・・」 佐助はこの日とうとう政宗経由で片倉に食費を請求しようと心に決めた。 「着替えとか、いつ持ってきてんの?」 片倉が人のタンスの中から自分の着替えをごそごそと出しているとそれを見ていた佐助はふと昼疑問に 思った事を尋ねてみた。なぜなら気付いたら増殖しているのである。今もこの前確認したときには無かった 色の物を持っている。 「ん。あぁ週末に少しずつだが」 へぇそうなんだ。と佐助はにこやかに返しながら胸の中で「悪気ねぇ!」とツッコミを入れた。そういえ ば片倉の着替えの入ってた引き出しの中には元は何が入っていたんだっけ? 佐助は何か問題でも?と当然な顔をしている片倉の様子に追求を諦めた。今度自分で探すしかないようだ。 「お。そうだ」 すると突然片倉が何かを思い出したように声を発する。それまで別の事に思考を向けていた佐助を放ってスタス タと片倉の手荷物であるカバンを取りにベットの置いてある部屋に消えてしまった。 それからあまり時間を掛からずに戻ってきた片倉は手に何やら結構な大きさの紙袋を持っている。それを佐助の 目の前に置き片倉自身も袋の前に腰を降ろした。 「なぁに。それ」 「買ってきた」 そう端的に答えると袋の中のものをゴソゴソと出し始める。 「・・・それって」 「ん?」 枕だろ。カップとグラスだろ。茶碗に箸にあと、あぁ洗面用具一式。 と自慢気にひとつずつ説明しながら片倉は佐助に見せた。 「あ。これはお前にだ」 「え。なに」 「ゴム。髪括れ。毟りたくなる」 「・・・・・・」 そう物騒な事を言いながら佐助に手渡したのは女の子が使うような黄緑のゴムでそれにはプラスチック製の水玉 模様のまぁるい玉のついた明らかにヘアアクセサリーと言われる類の物だった。 「えぇかわいい。片倉さんありがとー・・・って!言いたいことたくさんありすぎて どこにツッコミ入れていいかのかわかんないんだけど!!」 住み着く気なのかとか毟りたくなるって何とか、なんでこんな可愛い物買ってくるのとか、これ片倉さんが自分 でレジに持っていったのかとか、言いたいことはたくさんあった。だがどれから先に聞いていいか佐助には解りかねた。 佐助はこの人正気かと、正気なのは付き合い上嫌でも分かったがそれでも冗談であってほしいと片倉の顔色を伺 ってみると珍しくその顔には彼が今何を考えているのかが一発でわかるほどわかり易い表情をしていた。 やばい。この人俺が髪括るの待ってるよ! えぇえ、と佐助は狼狽しながらどうしたものかと考えているうちに片倉の期待の目(たぶん無自覚)に耐え切れな くなりおずおずと髪を括ってみた。 毟りたくなるってどういうことだろ、うざいって意味かな。それにしてもボンボンが重い気がする。 雑にだがとりあえず髪をまとめてみた佐助は非常に戸惑いながらも一応貰い物なので送り主に、どど、どう?と聞 いてみた。別に返事なんかが欲しいわけじゃない。場を凍らせないようにしようと思ったのだ。 すると片倉は少し驚いたように目を開くと大体いつもしかめっ面のへの字口の口の端を持ち上げた。 そしてフフっと声を立てて笑い出したのである。 「クソが付くほど似合わんな」 いやぁ買った甲斐があった。とひとり納得しクツクツと笑う片倉に佐助は思考が停止しそうになった。 「・・・えっと。人を笑いのネタにしないでくれる?でもまぁこの際そこはいいよ。えっとね」 「ん?なんだ」 佐助は自分の発した言葉の語尾のほうがなんだか震えてた気がする。できることなら今すぐにでも政宗を呼んで この人を連れて帰って欲しかった。しかしそんな気持ちを他所に、片倉は毛玉みたいなやつと迷った。とどうで もいい事を言っている。 「―――あーええっとね。とりあえず。ここに住み着く気なの?移住計画?小分けして徐々に私物増やす計画?」 「セカンドハウス」 「ああそう・・・」 真顔だ。このおっさん真顔でボケたよ。佐助は口の端が痙攣しそうなほど引きつってる気がしたが平気な振りをした。 ツッコんだら負けなきがする。はぁ、と佐助は最近減ってきていた最大級の溜息をつきながら頭を抱えた。 わかりかけてるつもりだったのにやっぱり俺にはこの人は理解できないかもしれない。そうやって佐助は うっかり片倉を受け入れた事を少し、否今回は多いに後悔しながら目頭を指で挟むようにして押さえた。 すると佐助が油断していたのをいい事にすっと片倉の手が佐助の頭に伸ばされ結び目の部分に軽く触れた。 「これ」 「・・・・・・はい?」 「他にも赤とピンクと水色とあったがこの色が一番いいと思った」 「・・・・・・」 不覚にも赤面してしまうかと思った。佐助は片倉が結び目を触っているせいでゴムについたボンボンが耳元でカ ツンと軽い音を立てるを聞きながら思わず黙り込んでしまった。片倉は元がいいのか真顔で真面目な感じで喋る とたまに同じ男として悔しいくらい男前に見えるときがある。 「む、」 「ああ?」 「・・・毟らないでよ。さっき言ってたじゃん」 「毟りはせんだろうが・・・」 そう言いながら片倉はクンと括って纏まった髪を引っ張る。あいで、と佐助は後ろに首を逸らしながら悲鳴を上げた。 「痛い。痛いから!」 「フっ。まるで尻尾だな」 クンクンと未だに引っ張り続ける片倉の手を止めようと佐助は痛いいたいと訴えながら何とか離しに掛かろうと したが体勢が悪いのか中々片倉の大きな手を止める事が出来ない。やばいな。佐助は思った。なんだかよろしく ない雰囲気になりそうだ。前の時に自覚したのだが佐助は片倉に頭を撫でられるのに弱いらしい。今回は別に撫 でているわけではないが片倉が頭に手を伸ばしてくると動けなくなってしまう。 「・・・ちょ、離れてよ。近いよ」 「そうか?」 「そうだよ」 片倉が髪の毛を引っ張っている所為で顔を横に向ける形になっている佐助はよかったと、心の中で胸を撫で下ろした。 今の状態で片倉の顔と真正面で顔を合わせるのは非常に居た堪れない。というか恥ずかしい。そしてふと佐助は 自分の心の変化に気がついた。以前の自分ならここまで片倉の顔が寄ってもきっと、うぎゃあ。程度しか思わな かったに違いない。 今でも心境はそれと同じなのだがもしかしたらそれ以上に左胸の内側がうるさくなっているかもしれない。 この胸の忙しなさも確かに前も感じていたがあれはあくまで片倉が怖くて怯えている時の動悸だった。 これはそんなんじゃあない。どうしようこのおっさんにここまで狼狽えるなんて。 髪のボンボンがカツンと軽い音を立てるたびにその音に触発されるように胸や耳の後ろや体のいたるところの血 管が集まって束になっている部分がどくどくと音を立てているような気がする。 「頭。本当に地毛なのか」 「・・・そうらしいよ。昔からこの色だもん」 「そうか。たまにこれが目に痛いほど眩しく見える」 思わず返事が出来なかった。そんなこと何処かのキザ野郎が美髪の美女に言う台詞だ。普段単語しか言わないよ うな偏屈がたまに口を開けば返答しづらい事しか言わないなんて。それに間合いが悪いと思った。いつもなら口 が勝手に動いてどんな境地でも基本的にはすんなり潜り抜けれる自信が佐助にはある。でも今回は別だ。頭に手 を回され近くで聞いて初めてわかったけれど、よくよく聞けば物凄い声をしている。声質がなんとなく自分のと 似ている気がしていたのだが自分の声と他人声じゃ耳に届いた時に感じ方が違うらしい。片倉の声は人の動きを 止める作用があるのかもしれない。 未だにバクバクと自身が脈打つのを聞きながら佐助はそんなことを遠くのことのように考えた。 「・・・片倉さんさ。そんなこと女の人に言いなよ。お、男に言っても寒いだけだって」 「そうか?」 「そうでしょ。・・・口説いてるみたい」 そう佐助が言うと片倉は少し驚いたような顔をした。もういいでしょ離してよ。と佐助はもぞもぞともがきなが ら片倉の手から逃れようとした。すると片倉は驚いたような表情から今度は何かを思いついたように俯いた佐助 に気付かれない程度に人の悪い笑みを浮かべると、だとしたらどうする。と囁くように言った。 「へ?」 片倉の声が小さくて聞こえなかったのか、それとも聞こえた内容があまりにも佐助の想像の範疇を越えていたの で理解できなかったのか、佐助は恥ずかしがっているのも忘れて思わず顔を上げた。 「口説いてんだったらお前、猿飛はどうする?」 そこまで言われて初めて片倉の言っている言葉を理解した佐助は段々と片倉の顔が近づいていることに気付けな いくらいパニックになっていた。思わず正面を向いたしまったとき空いていた片手で顔を固定されたのもあって 顔すら動かせない佐助は、へ、とか、お。とか意味をなさない声を出しながらもがいた。 「ぅお?!は、えちょちょちょちょちょ!!!」 「だまれ」 「ちょっとちょま、まっっ――――――!!!」 頼むから寄らないでくれ、近すぎるって、本当にごめんなさい。なんでそんな楽しそうなのさ。色んな言葉が脳 内を駆け巡ったがその内のどれ一つとして音声になって佐助の口から発せられる事は無かった。徐々に寄ってく る片倉の顔と前から不思議と目を引く印象の強い黒い瞳に完全に抵抗を止めてしまった。 そして動きを止めてしまった佐助の唇に自分のそれよりすこし薄いものが触れてきた。その感覚にもそれが何か わかっている事実にも驚いて、尚且つ一度も瞼を閉じない片倉と目が合ってしまった佐助はとうとう目を閉じる ことが出来なかった。 触れ合った瞬間、音が止まった気がした。あれほどうるさかった自分の脈さえも止まったような気がした。 あぁでも脈のほうは一瞬止まってしまったかもしれない。 そしてなんの前触れも無く触れた時と同じように自然に唇は離れた。 口付けと言うにはそんな可愛らしいものでもなく恋人がするようなそれでもなくただ触れただけに近い。 佐助は驚きはしたがあまり大きなダメージは無かった。 ただダメージをむしろ感じることの無かった自分に驚いた。 「・・・・・・・・・・・・」 「生きてるか?」 「・・・死にかけた」 そう言うと片倉はさも楽しげにそうか、というと気が済んだのかすんなり佐助の頭から手を離しもとの場所に 座りなおした。そしてようやく片倉の手から開放された佐助は何か言おうと口を開いたはいいが中々言いたい ことが見つからずパクパクと金魚のように口を開け閉めしていたが結局何も言わずに口を閉じてしまった。 そのまま閉じた口元に片手を持っていったかと思うともう片方の手も顔に近づけ終いには両手で佐助は顔を覆ってしまった。 「・・・恥ずかしい。悪戯が過ぎるんじゃないの・・・」 「別に。したかったからしたまでだ」 それが悪いっていってんだけど。っと言ってもきっとこの男にはわかるまい。 手で顔を覆った佐助はそのまま体を斜めに傾けドタっと音を立ててソファに沿って床にころがった。佐助とて政 宗や元親とつるんでいるからそれなりは遊んでいいる。だからあんな戯れのような口づけにたいそう動揺するほ ど初心でもない。だが佐助は今どうしても顔から手を離す事が出来なかった。 やべぇ。おれさま今真っ赤。 「もうあんなことしないで・・・死んじゃうからさ」 「そういや心臓バクバク言ってたな」 「・・・・・・言わないで」 片倉は転がったままぼそぼそと話す佐助を眺めながら自分にしては珍しく顔が弛んでいる気がした。はたから見 たら何の変化もないが本人的にそんな気がしたようだ。この佐助の髪がハラハラ揺れるたびに引っつかんで毟り たくなるのをやり過ごすために買ってきたのにどうやら逆効果だったようだ。見てるとやっぱり引っつかみたく なるしヘアゴムについた飾りにも触りたくなる。 そして髪をいじっていたくて体を寄せると無性にあんなことがしたくなった。実は今でも転がっている佐助を踏 んでみたくなったりやっぱり髪の毛を引っ張りたくなってくるのだがそこは流石に片倉も耐えた。 これはよっぽどのことだな。このとき初めて片倉小十郎が自分の異常行動を自覚した瞬間だった。 些細なことから大きな事まで佐助にちょっかいをかけたくて仕方が無い衝動にかられる。人間は不思議なものだ なと片倉は思う。曖昧にだが佐助へ向ける感情を自覚し片倉は己の中に色んな欲求が湧き上がってくるのを感じた。 本気で怒らせてみたいし、泣かせてみたい気もする、苛め倒してみたい気もするし。ここで片倉は思い至った。 (ろくなこと考えてねぇな。自分がここまで歪んでいるなんて思いもしなかった) それでもやはり佐助の赤い頭を見ると引っつかんでみたい気持ちはかわらず。まぁいいと思った。 「猿飛だからいいか」 すると何が?と恨めしそうに見上げてくる佐助と目が合った。そしてあぁ好きなのかもしれない。と思った。 このしかめっ面の佐助の頬を今にも抓りあげたい。好きイコォル苛めたいじゃまるで小学生のような感情だが それが中々厄介なようだ。欲求のレベルが浅い分軽い気持ちでしてしまう。 「まぁ。惚れられた弱みだせいぜい我慢しな」 「普通惚れた弱みでしょ。って聞きたくないけど誰が誰に惚れたの。いや!聞きたくないけど!」 「さあな」 あんまり転がってると襲うぜ。と片倉は別にその気でもなんでもないことを口にする。猿飛の事だおかしな反 応をするに違いないと思ったからだ。すると佐助は元々大きな目を更に大きく見開き口をパクパクと開閉しな がらものすごい勢いで起き上がった。 「ぎゃあ!何いってんの?!きもい!」 そう言いながら佐助は走って部屋から逃げ出した。そのまま風呂場のドアを空く音がしたから風呂にでも入っ たのだろう。片倉はその様をみてツクツクと笑った。面白い。顔が一瞬真っ青になった途端に今度は下からど んどん赤くなって沸騰しそうになっていた。表情もそうだが猿飛の動きの全てが片倉にとって面白い物に感じ られてしかたがない。自覚してしまえば無意識にしていたことが今度から全部が意図的になものになる。今で も風呂から上がった佐助をどうやってからかおうかと無意識に考えようとしているおのれに片倉は苦笑いを こぼした。重傷だ。 ふと、片倉はテーブルを見た。するとそこには先ほど自分が用意していた着替えが置いてありもちろん一緒に バスタオルもある。そして先ほど佐助が何も持たずに風呂場に走っていったのを思い返した。勢いに任せて風 呂に入ったはいいが出るときに着替えもタオルもない。あいつのことだからきっと言い出すこともできずに風 呂場でいっとき悩むんだろうなと思った。そう考えると片倉は面白い事を思いついたと口の端を上げた。 ひどく意地の悪い顔をしている。 「仕方ない。持っていってやるか」 仕方ないといいながらも片倉の顔は佐助がきっと面白い反応をしてくれるのちがいないと期待に満ちた顔をしている。 いきなり風呂のドアを開けてやろうか。冗談で一緒に入ると言ってみようか。色々なことを考えた。どんな事 をしてもきっと楽しいに決ってる。片倉は確信していた。無自覚は怖いと佐助は前思ったが自覚してると手が 込んでくるので更に恐ろしい事を佐助はまだ知らない。とりあえず、と片倉はバスタオルと佐助の着替えを持 って風呂場に向かった。色々画策しているうちに佐助が上がってきても詰まらないし何より考えているうちに 佐助の顔が見たくなった片倉であった。 片倉が風呂場にむかって何分と掛からない内に夜もいい時間だというのに近所迷惑確実なほど大きな佐助の悲鳴が家中に響いた。 佐助が片倉にどんな事をされたのかはふたりだけの秘密である。 おわり はい。チュウ話でした。でもチュウというほど甘い物ではないですね。(反省 ちゃんとラブいのとか書いてみたいです。 2007.10.17 2008.03.12ちょっと加筆、訂正しました。 ブラウザバックでお戻りください。