□■あなたとはキスはしないの■□








「・・・流石に冷えるな」 

ここ最近まで中々気温が下がらずにいた日本列島もようやく秋が深まり始めた。 
しかしようやくというより急にと言ったほうがしっくりくるような冷え込み方で、うっかり薄着でもしていようもの
なら一発で風邪でも引いてしまいそうな勢いである。 そんな秋の夜長のもうそろそろ日付けも変ろうかという時間帯
に片倉小十郎は抱え込んだ仕事を一段落させようやく帰宅を果たせている。 仕事において決して手を抜くという事を
しない小十郎はいくらサービス残業だろうが時間外だろうが自分が納得いくまできっちりと仕事をこなすようにしている。
だからこの時間の帰宅など常である。それにこれは小十郎の直属上司である伊達政宗の仕事スタイルであるために誰
ひとりとしてそれをとやかく言うものなどいなかった。 

最寄の駅から自宅のあるマンションまでの道のりを小十郎は街灯に照らされながら黙々と歩く。最近の街灯は防犯防止
のために青白い光にしているという。青色というのは人の心を落ち着かせたりと鎮静効果があるそうだ。 そして小十
郎は少し先の道の端の街灯にもたれかかるようにして何かが丸まっているのを目に留めた。 


ゴミか。始め小十郎はそう思った。大きなゴミが街灯の下に不法投棄されているように見えたのだ。しかし歩く足を止
めていない小十郎がどんどんそれに近づくにつれてそれがゴミでない事が見て取れた。 

人が丸まって倒れている。酔っ払いだろうか。小十郎はそう思った。遠めに見た感じどうもホームレスと言った類では
ないようだ。ならば酔っ払いか。それとも具合でも悪いのか。 何はともあれこの季節一夜を野外で過ごしたところで
凍死はまずないだろうが。どうしたものだろうと小十郎は考えた。
考えている間にもどんどんと倒れている者との距離が狭まってくる。 

放置をして翌日の朝刊なり朝のニュースでものこの者がどうにかなったという報道でもあったら目覚めが悪いな。と小十郎は思う。 

そしてついに目の前まで近づいてしまった小十郎は、少しだけ躊躇したが結局仕方なしに声だけでもかけてみようと思った。
なに、具合が悪そうならとっとと救急車でも呼べばいい。 

「おい、具合でも悪いのか」 

道端に倒れている人間に向ってするにはいささかぶっきらぼうな言葉を投げかけた小十郎は丸まって横たわっている人
間が非常に若い男だという事を初めて知った。 これならばきっと無茶な飲み方でもして帰る途中にでも酔いつぶれた
に違いないと、小十郎は一安心した。声をかけて目が覚めたら即放って帰ってしまおうと思ったからだ。 

「おい、具合でも悪いのか」 

小十郎は返事が無かったためもう一度呼びかけてみた。 

「っ・・・・・・・・・」 
「ほら起きな。ここはお前さんの家じゃないぜ」 
「・・・・・・・・・、ぃた」 
「ん?」 

蹲ったままの男はボソボソと何か呟きながらもようやく意識を取り戻したのだろう。モゾモゾと体を揺らしながら起き
上がろうとしているようだった。 しばらく芋虫のような動く男を眺めていた小十郎は段々と動きがスムーズになってき
た様を見てこれならもういいだろうと、もう寝るなよ。と声をかけその場から立ち去ろうとした。 
しかし男は立ち去ろうとする小十郎の足を徐に掴んだ。 

「・・・何の真似だ」 
「・・・お腹空いた。一生のお願いなんか食わせて」 

そう言いながらも徐々に体を起こし小十郎が逃げないように本格的に両腕で足を掴んでくる男は力を入れた拍子にクゥ〜
と腹が鳴った。どんだけ腹が減ってんだか真剣に食わせてくれと訴える男を見ながら小十郎は、そうか腹が減っているの
かと仕方ないと苦笑いをこぼした。 
その笑みを了承と取ったのだろう、男はパァアと花を散らす勢いで幸せそうな救われたような顔をした。 

「だが断る」 

小十郎はそんな男の期待を一刀両断するかのようにすっぱり断ると
離せと言いながら纏わりついてくる男の髪を掴んで引き離そうとした。 

「痛い痛い痛い!はげる!はげちゃう!何か食わせてくれたっていいじゃん!」 
「寝言は寝ていえ。なんで俺が見ず知らずの汚ねぇガキに物食わせてやらないかんのだ!」 

そんな小十郎にケチだのなんだのと文句を言いながら梃子でも動こうとしない男に小十郎は我慢できなくなって薄暗い街灯
の下でも充分にわかるほど明るい色をした頭に拳を振り下ろした。 

「痛てぇえ!」 

頭部への衝撃で一瞬腕の力を緩めた男から瞬時に距離を置きそのまま走って小十郎はこの場を離れようとした。すると先ほ
どまでの押し問答が煩かったのだろう一番近くの家の住人が玄関先から不審者を見るような顔をしながら今にも通報でもせ
んばかりに受話器を片手にこちらの様子を窺っていた。 
そしてその怪しんでいる人を思わず目が合ってしまった小十郎はこんな事で通報なんぞされては堪るかと
ご迷惑お掛けしましてます。と深く謝罪をし多いに不本意であるがこれ以上辺りに迷惑は掛けられまいとギャアギャアと騒
ぎ立てている男の腕を掴んで小十郎はその場を逃げるようにというより事実走って逃げたのだった。 









「いやぁあ。ほんっとすみませんねぇご馳走してもらっちゃって」 

先ほどまで道端で丸まってした男はいかにも申し訳なさそうに小十郎の家の中で冷蔵庫の残り物をおかずに白飯をうまそうに食べている。 

「長いこと食ってなかったの忘れててさ。でもそんなこともあるよね!」 
「・・・ねえよ」 

というかそうじゃねぇよ。と小十郎は思ったが目の前で本当に上手そうに残り物と温めてあるがこれも前日の残りの冷ご飯で
あるそれを顔を緩ませながら食べるのでツッコミを入れることも出て行けということも出来なかった。 それに食べ物の恨み
は何とやらとも言う気がする事だし、と小十郎は最早どこか投げやりに思った。小十郎自身無駄な事を深く考える事や考え
たところで決して自分の実にならないのであれば瞬時に考えるのを止めてしまうとても極端な男だったのだ。どっちにして
も最終的には追い出すのならば別にそれを深く考える必要はないと思ったのだ。嫌だと言ったら力ずくでも何ででも追い出
す気満々だったのだ。片倉小十郎は非常に手の早い男なのだ。暴力的な意味で。 

「まぁ半年寝てたらしかたないかな。もう10月だもんなぁ」 
「はんとし」 
「半年ずっと寝てたの。俺様」 
「・・・寝たきり?」 

いやぁ違う違う。とあまりに不可解な事を男が言うので思わず首を傾げずにいられなかった小十郎に男は笑いながら言った。 
ではどういう意味なのだろうかとやはり首を傾げずにはいられない小十郎に男は、楽しげにあははと声を上げながら笑って
見せ、道端にいるときは死にそうな顔をしていたと言うのに今はもうそれが嘘のようにニコニコとしている。 

「俺様、実は人間じゃなくってね。ちょいと充電期間中だったのさ」 
「・・・・・・・・・ほう」 
「え?あれ。信じてない?まぁあだよねー。ありえないもんなぁ。俺だって信じないもん」 

でも本当なんだよね。とやはり笑顔で言った男は茶碗にあった最後のご飯の一盛を口に入れた。見事な食べっぷりである。 

「だからというか、寝てたから仕方無いんだけど何にも食べて無くってね。
 で、今日やっと目が覚めたから外散歩してたらさ」 
「・・・途中で腹が減って倒れたと・・・」 
「ビンゴ!!」 

お恥ずかしい、と少し照れたように情けない笑みを浮かべながら頭を掻いてエヘへと男は言う。 
こいつ頭がおかしいのではないだろうか。小十郎はこのときになって初めてとても厄介な者に絡んでしまったのではないかと
危惧した。自分の事を人間じゃないだのと。どこか精神が病んでいるのではないだろうかだからこんなに馬鹿のようにずっと
ニコニコしているのだろうか。 

「ちょっとぉ人のこと病気みたいに言うの止めてくれる?馬鹿みたいって初めて会った人にそりゃねぇでしょう」 

小十郎が決して口には出さず胸の内で男の事を考えていると、男は声には出していない筈の小十郎の思いに抗議をしてきた。
小十郎は驚きに目を見開いた。 

「・・・!!」 
「ふふ。俺様、少ぉしくらいなら心が読めちゃったりするわけですよ。まぁほんっと少しなんだけどね」 

どう?すごい?と自慢気に胸を張ってみせる。 

「でもこんな能力あったとこで大して便利なわけでもないんだけどね」 
「お前本当に人間じゃぁねぇのか・・・」 

便利じゃないと言う男を小十郎は思わず凝視してしまった。ただ頭がおかしいだけかと思っていたがそうではないのだろうか。 
しかし小十郎自身は現実主義者なのであまりオカルトめいたものやそのほか宇宙人だの妖精だのといった類のものを一切信じ
ていなかった。だから勿論超能力のようなものも信じてはいないので男が今、心の中を読んだのが気味の悪い事以外のなにも
のでもなかった。 そんな小十郎の心をまた読んだのかそれとも顔に考えている事が出ていたのか、男は少しだけ寂しそうな
笑みを浮かべたがまた直ぐにニコニコとした笑みに戻しさっきの料理は無農薬の野菜ばっかりだったね。

とさりげなく話題を逸らす。 

「むかーし食べてた野菜と同じ味がした」 
「・・・?わかるのかそんなのも」 

まぁね。と男は言いながらベェっと舌を出して、舌が肥えてるのさとおどけて見せた。 

「でもいまどき中々無いんじゃないの?そんなの」 
「まぁあな。普通のスーパーだのでは買えんから取り寄せになるな」 
「ふーん。そういうの凝り性?」 
「趣味だ」 
「そっか。いい趣味だね」 

そこで小十郎は思わず男とうっかり話し込んでいる事に気付いた。本来なら食べ終わった瞬間に叩き出すつもりだったのだ。
それをこの目の前の男がおかしな事を言うからついついうっかりしてしまった。チラリと時計を見るともう既に針は日付が変っ
てもう1時を過ぎてしまいそうになっている。 小十郎は明日も、というかもう今日だが仕事に行かねばならぬので目の前の
男がどうのという問題以前に早々と帰ってもらわないとこれではどんどん睡眠時間がなくなってしまう。 

「・・・お前帰る家はあるんだろうな」 

半年寝ていたというくらいだから帰る家はあるだろうと思ったが中々にこの男、普通ではないのだと先ほどわかったので小十
郎は一応確認をした。しかし確認したところでどうなるわけでもないのだが。 

「おうち。・・・まぁあるにはあるけど、たぶんもう今日は帰れない・・・かな?」 
「・・・何故」 
「鍵閉まってると思うなぁ。それにあいつ起こしたらすんごい怒んだよね。あいつめちゃめちゃ心が狭いから」 

そう本当に困ったように男は言うとどうしようと腕を組んで考え始めたようだ。どうやら締め出されているのは本当らしい。
それにしても家族を締め出して家に入れないとは本当にどんなに心の狭い人間なのだろうと小十郎は思った。 
今の季節ならまだ大丈夫だろうがもっと寒くなると一晩夜を明かすとなると中々危ない事のように思う。 

「んー、一晩くらいなら野宿も平気でしょ。じゃあご馳走になったしそろそろお暇しましょうかね。夜遅くにごめんね?」 

男はそう言いながら席を立つとうーんひとつ伸びをして玄関の方に歩み出した。 

「そーだ。今度ちゃんとお礼にくるよ。何か欲しいもんとかない?」 
「・・・いや」 
「えー」 

「そんなことより本当に大丈夫なのか、病み上がりなんじゃないのか?」 
「あら。心配してくれてんの。大丈夫!大丈夫!これでも結構頑丈だから!」 

そうしてまたにっこり笑うと、明日もお仕事なんだろ、早く寝ないと。と言う。先ほどの小十郎の心を読んでいたようだ。 


「・・・・・・・・・」 

くるっと小十郎に背を向けると男は玄関先までスタスタ歩いていってもう靴を履こうと身を屈めている。 
小十郎はあれだけ追い出す気だった筈なのにいざ男が帰ろうとするのを見るとなんとも言えない気持ちになった。
まぁ帰る家がある状態ならば話は別だろうが帰る家が無い状態の人間を真夜中に追い出すのは些か良心が痛いような気がする。 
男は玄関を開け、お世話になりました。とペコリとひとつ頭を下げ出て行こうとしている。玄関が空いた所為で外の空気が
スゥっと部屋の中に入ってきてた。 その風は小十郎が帰宅しているときよりも更に冷たさのました物になっていた。 




「・・・・明日は家に帰れんだな」 
「はい?」 

もう玄関の外まで完全に出ていた男は小十郎が言った言葉を上手く聞き取る事が出来なかったのだろう。
もう一度きちんと聞こうと男は玄関の中までもう一度体を入れた。 

「何か言った?」 
「明日帰れるなら、今日はもう泊まっていけ。布団は無いが外よりはマシだろう」 
「・・・わぁーお。いいの?」 
「俺は人を寒空に野宿させるほど人でなしじゃあねぇ」 

そう言いながら上がれと手で合図をする小十郎に男は、かっこいいねぇ。とにっこり笑いながら言った。 

「きっとあんたもてるんだろうねぇ」 
「さぁな。それより俺はあんたじゃねぇ。片倉小十郎だ」 
「へぇ名前まで男前だね。俺は・・・んー、猿飛佐助。あん・・じゃねぇや、えっと片倉の旦那には助けられっぱなしだぜ」 
「まぁ、始めのはお前さんがえらく強引だったがな」 
「えーもう忘れちまったぜ!」 

ケタケタと笑う佐助は靴を脱ぎリビングに戻る小十郎の後について歩いた。 

「でも、ごめんね。すっかり2時だ」 
「・・・・・・まぁ仕方あるまい」 

そう言う小十郎に佐助は変らず笑いながら俺様が短時間ですっかり熟睡できるお呪いをしてあげましょうか、と言った。 

「・・・お呪いだと?」 
「そ!爆睡間違いないぜ」 
「うさんくせぇな」 

妙に自身満々の佐助は即効性があるからちゃんと布団の上に行かないとね。などと言っている。しかし小十郎はオカルト
同様占いやお呪いの類も信じてなんかいないので佐助の言う事が少しも信じられなかった。 
それでもニコニコととても名案をしたと笑っている佐助にどうせもう寝はぐれているのならばこの佐助の冗談に付き合っ
てやってもいいかと小十郎は考えた。それに明日の業務内容を思い浮かべて今日ある程度無理をして終わらせていたりし
たので少々の夜更かしなら所掌はないと踏んだのだ。 

「で、何を始める気なんだ。何でもいいが俺を寝かす気ならお前がそこの片付けしてくれんだな」 
「へ」 

あれ、と小十郎が顎で指した先には佐助が先ほど綺麗に食べきった皿が二枚と茶碗とグラスと同じ数の小十郎が食べた皿
があった。俺を寝かすのは構わんがあれはお前が片付けろと小十郎は佐助にいう。 
するとてっきり佐助が面倒くさがると思っていた小十郎に彼はあっさり 

「いいよ」 

と言った。お疲れでしょ、迷惑掛けたしねこのくらい俺様喜んで。と片づけを引き受けてしまった。 
それには小十郎も驚きはしたが佐助の誠実さが窺えたようで、まぁ人助けも悪くないなぁと思った。最初は物凄く胡散臭
い餓鬼かとも思ったが、胡散臭いのは変らないが、そこそこに常識のあるまともな人間だったらしい。本人は人間では無
いと言ってはいるが今の時点で小十郎はそれを信じてはいない。 
それどころかたぶんもう先ほどのそういった会話をきちんと意識しているかも怪しかった。 

「じゃあ。寝室どこ?あ。でもお風呂は」 
「風呂はもう朝入る」 
「そお。ばっちいなぁって痛い!」 

風呂に入らないなんて汚いとおどけていった瞬間に佐助は髪の毛を強く掴まれた。
小十郎はグっと力を入れながら引きつった笑みを浮かべた。 

「テメェが急かすから仕方無しに言ってるのに・・・」 
「わぁーごめんなさい!」 

謝りながら髪を引っ張る小十郎の手を外そうとする佐助に小十郎は彼の手を近づけさせないようにしるために髪を握った手を
佐助の背中側に動かした。 すると当然のように髪ごと頭も引っ張られ佐助の体の重心がどんどん後ろに倒れていく。 

「やばい!こけるこける!倒れる!」 
「俺を汚い呼ばわりしやがって」 
「ぎゃあ!ごめんなさい!ってば!」 

ギリギリまで背中を反り返らせながら頭が痛いのと背中が苦しいののとで佐助は掠れたような声で半ば叫ぶように謝った。 
すると小十郎は気が済んだのか口角をニっと上げながら髪を掴んでいる手を離した。佐助の反り返った背中は頭の重さが
支えられないほどに重心が動いていたのだろう、小十郎の掴んでいる事によって支えられていた体は彼が手を離したと同時
に後ろ向きに勢い良く倒れた。 佐助はフローリングの上に倒れ大きな音が部屋に響いた。床に叩きつけられた背中が痛い
のだろう佐助は背中を押さえながら悶しながらのた打ち回っている。 

「がぁ〜〜〜〜っ!」 
「ふん。なんだまた床で寝るのか」 
「〜〜ってぇええ!!」 

あまりの痛さに思わず涙ぐみながらも佐助はのろのろと起き上がった。まだ背中が痛いのだろう腕の届く範囲で背骨の上の
あたりを撫でている。あんたメチャメチャ手が早いんだね外でも思ったけど。と佐助は声を出すと痛いのか声が出ないのか
掠れたような声で言った。 
すると小十郎はしらねぇ、と否定をしなければ肯定もしない曖昧な返事を寄越してきた。たぶんこの指摘は佐助が初めてで
はないな、そう佐助は確信した。 

「我慢するのも大切だぜ」 
「俺は充分に我慢強い。でなけりゃてめぇを泊めてなんかやらん」 
「・・・・あっそ」 

小十郎は佐助の方を見もしないでスタスタを寝室を思しき部屋のドアを開けて入ってしまった。佐助も背中に手を回したまま
それに続いた。部屋の中は本当に寝室で大きくであまり安物でもなさそうな立派なベットが真ん中に置かれてある。 

「ダブルか。デカイ方が気持ちいもんね。俺寝てたとこはシングルぐらいだからきつくってさ」 

半年寝ていたという佐助はシングルで寝ていたという。小十郎はよくそんなサイズに半年も寝れたものだと思った。
佐助は別に特別大柄でもないが決して小柄ではない。そんな長期間シングルで寝ていたら途中で体が痛くなって起きそうなも
のだが。自分なら絶対に不可能だと小十郎は自分のベッドの大きさがこれでよかったと改め感じた。 
小十郎は佐助がベッドに腰掛けているのを尻目に流石にこのままでは寝れぬと、パジャマに着替える気にもならなかったので
簡単なトレーナーとパンツを着替えた。 

「本当に寝るからな」 
「ええ。勿論。片付けときますよって朝は何時にお目覚めですかい?」 
「・・・・7時に」 
「りょーかい」 

じゃあ、ほらほら横になって、と佐助は小十郎を無理やりベッドに座らせ布団に入るように急かした。小十郎も特に抵抗もせず
にいう事に従った。寝室に入ってカッターを脱いだことで疲れがどっと出たのか急に眠くなったきたのだ。 佐助は掛け布団を
被った小十郎に向ってまるで子供にでもするかのように掛け布団を整えてやり布団の上をポンポンと軽く叩いてみせた。 

「じゃあいきますよっと」 
「・・・・・・・」 
「ほらほらそんな疑うような目で見ない見ない」 

そう言いながら目を瞑ってと掌で優しく小十郎の視線を遮った。急に手が覆い被さってビックリした小十郎の瞼がヒクヒクと動き
佐助の掌を小十郎の睫がくすぐった。 そしてそのまま完全に小十郎のふたつの瞼の上に掌をくっつけてしまうと佐助はヘラっと
していた顔を真剣な顔に引き締め小十郎の上にある手に意識を集中させた。 

「おやすみ。片倉の旦那」 

そう佐助が元々深みのある声をもっと低く囁くようにしながらそう告げ、まるで小十郎のまぶたの上にでも口付けを落すように自
分の手の甲に唇を触れさせた。 


「・・・」 

佐助が何かしたような気がしたがそれが何かを尋ねる前に急に、小十郎は本当に急な睡魔が襲ってきてしまいお呪いとやらがもう終
わったのかもこれがお呪いの効果なのか、お呪いのやり方など全て尋ねる事が出来ないまま吸い込まれるように眠りの落ちていった。 



「ふふ、おやすみ旦那。夢をみないほどよく眠ってね」 








つづく 





当初、ハロウィン企画だったので、10月中に終わらす予定だったのです。 

この計画性の無さと筆の遅さを呪いたい。 

2007.11.06
2008.03.13少し修正