「へぇ。あいつがそこまで話したのか。それはけっこうな事だな」 政宗は小十郎の話を聞き終わると機嫌よく、ぽんと膝をひとつ手で打ってみせた。 独りは嫌なくせに警戒心だけは一人前だからなあれは。と佐助のことをあれと指しつつ楽しそうに政宗は破顔する。 それで、お前は小十郎はどうしたいと思ったんだ。 そう政宗に問われ小十郎はちらりと思案すると直ぐに首を横に数回振るう。わかりません。 己がどうしたいのか、佐助が何を望むのか、それのどれもこれもが解らない。己自身の事はきちんと時間を作れ ば答えが出てしまいそうな気がしなくもないが今はその答え自体を小十郎は目の当たりにしたくない。 「佐助ほどの臆病者は滅多居ないと思うぜ」 首を振ったきり難しい顔で動きを止めてしまった小十郎に政宗はくつくつと笑いながら口を開いた。 “臆病者”その単語に小十郎は、あぁなんてあいつにしっくりくる言葉なんだと思う。彼はこの上なく臆病なの だろう。他人と自分に対して。 「あいつがビクつかずに話すのはたぶん俺ともう一人、たぶん真田だけだからな」 あいつは半端ものだから完全に人になりきるのも逆に人から離れるのも怖いんだろうよ。だから自分に嘘をつい て誤魔化して自分を含めた周りに常に虚勢を張って無理やり生きてんだ。 つらつらと佐助の人物像をまるで目の前に本人がいてそれを見て話すように政宗は小十郎に語る。特に同情や別 の感情を挟まず話す政宗の口調はさながら何かの説明書を音読しているようである。その政宗の言葉に一々が佐 助という人物の型に綺麗に嵌るのを小十郎は感じながらも、ならば何故。という疑問も同時に胸のうちに浮かび 上がってきた。 「・・・・・・それをどうにかしてやる事はできなかったのですか」 「じゃあ。それとは何だ?」 「・・・半端な状態の改善、などは出来なかったのでしょうか」 「それは俺の管轄外だ。俺は佐助を管理してる立場じゃない。あいつとの関係は友人だ。 腐れ縁で一緒にいるだけだ。もうひとつ、あいつの人格形成に関してはあいつが人間だった時の 環境による物が大部分占めてると思うぜ。他に何か聞きてぇか?」 「・・・・・・いえ」 小十郎の問おうとした事を先読みしたように政宗は一気に言葉を連ねたてた。どうしようもないのだろうか。 小十郎は無言で政宗の顔を窺う。佐助との関係を友人と言い切った政宗はもしかしたら過去にどうにかしてやろ うと思った事があるのかもしれない。政宗という人物は実際に行いもせずに結論を出すような人ではない。 きっと佐助を横に置いているのも政宗の心配りではないのだろうか。 「だがまぁ・・・あいつはお前に懐いてる。あまり無碍にはしないでやってくれ」 「その様なつもりはありません」 でなければ半月たりとて家に置いておくものか。佐助の事は好きかどうかを聞かれると一瞬考えてしまうが嫌い かと問われればそうではない。家に帰れば部屋に灯りが付き料理が出来ている。それは悪い物ではない。 佐助との日常とてそうである。大半がふざけた事しか言わないがそれもこれも物を知っているからこその言葉で あるのが解るのでたまに苛つきはするものの会話を止める気にはならない。 それになによりたまに、へらりと頭が足りんのではと危惧してしまうくらいに無邪気に浮かべる笑みを小十郎は 気に入っている。以前、身内に子供ができ、その幼子が浮かべていた笑顔に佐助のそれは似ているように思う。 それほど佐助は小十郎に対して警戒心を持っていない現われでもあるのだが。 だからそこ、小十郎はたまに少し悲しげになる佐助が気になって仕方が無い。 「お熱いこって。まったく羨ましいぜあんたらが」 ふいに政宗が大袈裟に溜息を吐きながらやれやれ、と肩を竦めて見せた。小十郎はそれに何事かと視線と向ける と先ほどとは打って変わって不機嫌そうに顔を歪める政宗の顔が横顔があった。 「?。如何なされましたか」 「小十郎、お前は思考が駄々漏れなんだよ」 「はぁ」 「はぁ、じゃねぇよ。もうちょっと警戒しろ」 「なぜ政宗様を警戒する必要があるのですか」 政宗に警戒などありえない。そう言いきった小十郎に政宗はまぁ大げさに息を吐いてみせる。 まったくお前という奴は。 「お前は、長所も短所も真っ直ぐな事だ。 思った事は全部、佐助に言えばいいし聞いてみろ。そして俺の前であまり惚気るな」 「惚気てなどおりません。それにお言葉ですが思考を読むのは政宗様達が勝手にしてる事でしょう」 「好きで読んでんじゃねぇよ」 政宗はそう言いながら、やれやれ。とデスクに頬杖を付く。で、今日は用事があるんだろ。政宗は小十郎のほう に視線だけ動かすと不貞腐れたように言う。 何をそんなに急に機嫌を損ねたのだろうと小十郎は首を傾げながら、ええまぁ。と答える。 「へ。じゃあもう帰りやがれ。話してるうちにとっくに定時だ」 「いえ、まだ先ほどの書類の件がありますゆえ」 「俺が良いって言ってんだ。俺が片しとく。小十郎はとっとと帰れ何かあんだろ?佐助と」 シッシとまるで虫でも払う様に小十郎を手で払うと政宗は唇を微妙に尖らせながらぶつぶつと嫉み事と呟いている。 それを暫くは小十郎は様子を窺っていたが、こうなった政宗が梃子でも動かないのは明白で、ならば言葉に甘え て今日は帰ろうと思い直した。 「それでは政宗様。お言葉に甘えさせていただきます。埋め合わせは明日以降必ず」 「へいへい。精々ちちくりあってきな」 「・・・その様な事はしません」 「ああそうかいそうかい。わかったからとっとと帰れよ」 「はぁ。でわ」 「・・・あ。そうだ。『体力無くなりかけたら一回戻ってこい』あいつに言っとけ」 伝言な。と言うだけ言った政宗はそのまま小十郎をシッシとまた手で払って見せる。 そうされた小十郎も仕方ないとそのまま、解りました。と言い礼をして社長室を後にする。 正直な所、佐助との約束というのも大した物ではない。だからここまで早く退社しようとも思っていなかったの だが、政宗にここまで気を使わせてしまった事に小十郎は多少の罪悪感を感じた。約束というのも帰りに佐助と 駅で待ち合わせて一緒に買い物をして帰るというものだ。佐助は携帯電話のような物を持ち合わせているわけで はないが、佐助本人の言うところ小十郎が胸の中で佐助に語りかける様に思えばそれに返事をする事が可能らしい。 便利な物だな。佐助や政宗の心を読める能力と佐助の心の中で会話が出来る能力を少しだけ羨ましいと小十郎は 思う。別に欲しいとまでは思わないがそれらの能力があればさぞや仕事に便利だろうと思ったのだ。 ○○○ 自分のデスクに戻るとすでに粗方終わらせていた用事のほかに最低限必要な事を済ませると小十郎は帰り支度を 始めた。今日の夕食は天麩羅を予定してある。だからふたりの食べたい具を一緒に買いに行く約束をしたのだ。 天麩羅は季節的に春や初夏などが一番食材的にはいいような気がするが、今時大型スーパーに足を運べば季節な ど関係なくある程度の物は簡単に手に入ってしまう。 どうせならふたりで買出しに行きましょうよ。と佐助が言い出したのでそうする事に決めたのだ。 「今日はえらく早かったんだね」 「政宗様が気を使った下さった」 「旦那がねぇ」 会社からの最寄の駅についた当たりで小十郎は言われた通りに佐助に話し掛けるような感覚で胸の内で佐助を呼 んでみた。 すると何処からともなく佐助のよく透る声が聞こえてくる。しかしそれは聞こえてくるのではなくどちらかとい うと脳に響くような感覚で、聴覚が働いている物ではない。始めは少しだけ戸惑ってしまった小十郎だが仕事を 終わった事を告げ己の乗る電車の出発時刻を佐助に告げる。すると小十郎の脳内に、はいはぁい!と佐助の聞こ えはいいが何となく小十郎の神経を逆撫でしそうな軽い、軽すぎる返事が響いてくる。 それに小十郎は少しだけイラっとしたが悪気が無いのが明白で、しかも本人が目の前に居るわけでもないのでそ っとイラつきを鎮火させた。 普段はそうでもないがたまに、機嫌がすこぶるいい時などに頭の天辺から発しているのではと疑いたくなるよう に高い声を発する佐助に小十郎はたまに無条件でぶん殴ってやりたくなる時がある。 「たらの芽とかあるかな」 「さぁな。季節的になさそうだがな」 「だよねぇ」 「今だとナスとかキノコ類だろう」 「ああ!いいねぇいいねぇ!」 「おお!佐助ではないか!」 駅で待ち合わせたふたりは、あれが食べたい、これがいいと他愛のない会話をしながら歩いているとふと背後か らか佐助を呼び止める声が聞こえた。呼ばれた佐助は、あれ?と振り返り小十郎は呼ばれた佐助の顔を思わず見た。 佐助のこれまでの口ぶりではまさか街で誰かに呼び止められるなど小十郎は思っていなかったのだ。 そして振り返った佐助の目の前には一人の青年が立っている。 青年と言っても一見、学生にも見えなくもない顔をしており満面に笑みを浮かべているこの男はどう見ても高校 生か大学生にしか小十郎は見えなかった。 そんな小十郎が疑問でいっぱいの中呼び止めた当人は、おお!やっぱり佐助だ!俺が見間違える筈が無い!と少 々興奮気味に両手を広げながら佐助と出会ったのを喜んでいる様子だ。 小十郎はこの佐助を呼び止めた男の声の大きさと動作の大きさに一瞬眉を顰めてしまう。 最もよく知る人物に何となく言動が被って見えたようなそんな錯覚を覚えたからだ。 「えぇえ!?旦那じゃないか!!」 大手を広げた男を佐助は、驚いた!と言わんばかりに『旦那』と呼びながら同じように近寄る。 「随分と久しいな!聞いておるぞ!今余所に住んでおるそうだな?」 「ああそうなんだよ!え?なぁに真田の旦那は元気にしてんの?って聞いても元気なのは見りゃわかるか」 「うむ!俺はよくしておる!佐助も大事ないか?久しぶりに立ち寄ったらお前がおらぬのでがっかりしたわ!」 「そりゃごめんよ!真田の旦那ぁ。何だかかんだで竜の旦那に急かされちゃってさ。 旦那はあの人に何か、こういかがわしい事とかされてないかい?」 「はは!政宗殿はその様な事をするお方ではない! 安心致せ、毎日美味しい物を沢山ご馳走して頂いているのだ!誠に良い方だ」 「あはは!うっわ。何ていうか竜の旦那不憫すぎるわ!」 なんの事だ?と笑顔のまま小首を傾げる男に佐助は一頻り笑いながら、なんでもねぇ!旦那には少しも問題無い から!とヒィヒィと涙ぐむ勢いで言う。 完全にふたりの世界と化したように感動の再会を始めた佐助と真田の旦那と呼ばれる人物の会話を小十郎は思わ ず呆気にとられるような形で見ていた。まず佐助に知り合いがいた事が驚きだが、ふたりの会話を聞いていると どうも政宗の知り合いであるという事が知れた。そして、佐助の話す内容から推測するに退勤前に政宗が話して いる時に名前の挙がった『真田』と目の前の男は同一人物なのだろうと考えられる。 あと、これはあまり小十郎に直接関係はなさそうであるが、たまに佐助が話題に出す政宗の意中の人と言うもの この目の前の男なのだろう。 「そうだ、佐助。この方はどなたか聞いても良いか?」 「ああ。すっかり忘れてた」 「・・・おい」 「ごめんごめん」 忘れていたのか。と批難の目で小十郎がじろりと佐助を見やると、うっかり。と頭の後ろに手を回しながら佐助 はあはは!と先ほどからの延長のようにケラケラと笑ってみせる。 「このお人は竜の旦那の部下兼、俺様のご主人様。そして俺様はヒ「おい、猿飛」」 「おお!政宗殿の!」 「へいへい。すんまぇんねぇ。片倉小十郎さんって言うの」 「俺は真田幸村と申します。よろしくお願い致します」 「ああ。片倉小十郎だ。そしてご主人様ってのはこの阿呆のただの戯言だ気にしてくれるな」 「??佐助は昔から冗談が好きなゆえ、よく存じております」 「・・・・・・ところで、あ。いや・・・」 ニコニコと笑いながら言う幸村に小十郎は佐助が声を掛けられてから今に至るまでずっと疑問に思っていた事を 尋ねようかと思った。のだが、初対面の人間にするには些か失礼になるような気もする質問内容だったため小十 郎は言いかけて途中で止めてしまった。 すると当然幸村は不思議そうに首傾げてしまい、どうかしましたか?と逆に此方に聞いてくる。 いやしかし、小十郎とて、 お前も佐助や政宗の様に人間ではないのか? とは聞けたものではない。所謂人外である佐助と政宗の知り合いで、政宗が何かしらの特別な感情を懐いている 人物なのだとしたら矢張りこの男もふたりのように人間ではない気がしたのだ。 しかしいくらなんでもそんなおかしな事を尋ねる事など常識的に考えて出来ないだろう。 小十郎は仕方なしに隣にいた佐助に視線を移し、おい。と言いながら肘で突付いた。 「ん?どかした?」 佐助の事だからどうせ人の思考など丸わかりなのだろうに、それをわざと知らない振りをするあたりこの男も中 々にいい性格をしていると小十郎は思う。そんな様子の佐助に隠す事無く寧ろこれ見よがしに舌打ちをした小十 郎は声を少しひそめながら佐助に先ほどの疑問を問うた。 「あれも、お前らと同じ類なのか?」 「へへへぇ。どう見える?まぁ普通には見えないよね。いろいろ」 「一々、回りくどい奴だなテメェは・・・」 「旦那は急かしすぎ。でもまぁ、そうだよ」 そうだよ。真田の旦那も人間じゃありませーん。そう言いながら、ね、旦那。と笑いながら佐助は首を傾げ幸村 に同意を求める。幸村も何のことかはよくわからないようで、佐助と同じように首を傾げてみせ相変わらず 不思議そうな顔をしている。 「何のことだ?佐助」 「いやぁ。旦那も竜の旦那や俺様みたいに人間じゃねーんですよね?って話」 「へ?ああそうでござる。しかし片倉殿もそうなのでござろう?」 「・・・俺は人間だ」 「え、しかし政宗殿の部下なのでござろう?」 「旦那だんな。この人は竜の旦那の会社の社員さんだよ。人間」 「そうか・・・俺はてっきり・・・」 「片倉の旦那が怪物に見えたって?」 そりゃぁおっかない顔してるもんねぇ。と佐助は笑う。幸村は佐助のその言葉に少し驚いたような顔をしながら 思わず小十郎の顔と佐助の顔を見比べてしまう。 「・・・誰の顔が何だと」 「あ、いや!そのような事おもっておらぬ!佐助!失礼であるぞ!そしてあたかも俺が言ったように言うな!」 「あはははは!やばいって!旦那相変わらず面白すぎ!」 俺様さっきから笑いっぱなしなんだけど!そう言い涙まで流しながら笑う佐助に小十郎はあからさまに大きく息 を吐き、往来であるため極力目立たないようにしながら佐助の足を重いきり踏みつけた。 「っいった!!」 「ちったぁ黙ってろ。いい加減話が進まん」 「・・・踏みつける事ないでしょうが!」 「うるせぇよ。お前は」 「かか片倉殿・・・っ!」 三者三様、怒れる男に痛がる男にそれを見て慌てふためく男。 駅前で繰り広げられ奇妙なやり取りと大の大人さんにんの立ち話は、退勤ラッシュの真っ只中の駅前では邪魔な物でしかない。 しかし悲しいかな話し込んでしまっているさんにんの誰もが世間様の邪魔になっている事など気付きもしなかった。 「先ほどは済みませぬ。俺が佐助に声を掛けてしまったばかりに」 「いや。この馬鹿がふざけやがった所為だ。お前さんは何も気にすることはねぇよ」 「え?!俺様の所為かよ!」 「佐助。あまり片倉殿に迷惑をかけてはいかんぞ!このような良いお方は滅多におらんかなら!」 「何処が良いお方何だか往来で暴力振るってくるってのに」 「それはテメェに問題があるからだろうが」 小十郎の言葉にそうだそうだ。と、もげてしまいそうなほど首を縦に振って肯定している幸村と佐助を馬鹿に仕 切ったような目で見てくる小十郎のふたりに佐助は眉を下げ溜息を吐く。 なんだろう、このふたりなんだか気が合ってたりするのではないだろうか。佐助はそう思いながら、へいへい。 俺様が悪かったですよ。とそんなこと微塵も思っていないのを隠す事無く面倒そうに言う。 今度はきちんと歩きながらさんにんはというか、佐助と小十郎はどうして幸村がこんな所を歩いていたのかを尋ねた。 すると当の本人はいとも簡単に笑いながら散歩でござる。と言う。散歩と言える距離じゃあないでしょうがと佐 助が何やらツッコミを入れていたが小十郎が最初佐助を拾ったときも政宗の自宅から流れてきて飢えて倒れてい た時だった。もしかしたら人間でないふたりには距離感とかそんな物が欠落しているのではないかと小十郎はチ ラリとそんなことを考えた。 見た目は普通の人間なのにな。小十郎は自分よりもやや前を歩く佐助と幸村を見ながら思う。 もしかしたら己が知らないだけで世の中は実は人間ではないものだらけだったりするのだろうか、などとそんな 事すら思ってしまいそうなほど楽しそうに会話をしながら歩くふたりの見た目は人間の若者以外の何ものでもな かった。 「それにしても随分と仲がいいな」 小十郎は一度しか見たことはないが前の佐助と政宗のやり取りと今の幸村とのやり取りを見て佐助の態度が少し 異なって見えてそれを思わず口に出した。何というか、佐助が日頃よりも大分楽しげにしている気がする。 「俺様たちちょう仲良しだぜ。ね。旦那」 「うむ。佐助は俺の大事な友だ!」 「それをねあの竜の旦那がヤキモチ焼いて妨害するからたまにしか会えないの」 「政宗殿は別に妨害などしておらぬだろう」 話を聞けば幸村は全国を股にかけて自称修行の旅をしているらしい。それで当初は佐助も付いて行くつもりだっ たらしいがそれを政宗が反対したのだという。 実際、佐助は政宗から体力を供給してもらっている為仕方のない事だったらしいが。 それを佐助は妨害だと言っているようだ。 その後もくだらない事を交えながらこれまでの話と幸村が全国で見たり聞いたりしたことを身振り手振りで話し 聞かせてくれた。 なんでも幸村は虎の化身のような物のようで所謂、竜神であるらしい政宗と同じ部類に入るそうだった。 「旦那。どうする?今日ご飯とか食べてかない?」 「おい。それは俺が聞くことでお前が聞くことじゃあねぇだろう」 「え。まぁまぁ細かい事は気にしなさんなって」 いけしゃあしゃあと言う佐助をチラリと見据えながら言うと少しも悪びれもせずに佐助が笑って誤魔化す。 しかし、小十郎もそう言うつもりでいたため、佐助の後に続き、良かったら寄っていかないか。と言う。 もうそろそろ目的としていたスーパーがあるところまで来たので一緒に買い物でもして帰ればいいかと思ったのだ。 「いえ。俺は政宗殿の所へ戻ります。それに邪魔しては申し訳ないので」 「は?邪魔だと?」 「政宗殿から窺っております。おふたりは良い仲なのだと。良かったな佐助。この方は素晴らしいお方だ」 「えぇええ。気を使わせちゃって悪いね!・・・いやぁああ!照れちゃうなぁ!!ねぇ旦那!」 「いやそんなんじゃねぇ。っというか猿飛!テメェも紛らわしい事言うんじゃねぇよ否定しろ」 「へ。違うのでござるか?」 「違う。断じて違う」 「ごめんよ旦那ぁ。この人照れちゃって」 「猿飛」 ギンっとここ数日の中で最も凶悪な顔で睨んできた小十郎に佐助は仕方ないと笑いながら幸村に違うと説明して みせる。まったく、嘘を平気で言う政宗様も政宗様だがそれを笑って肯定するな、猿飛。 そしてそんな事簡単に信じてくれるな。真田。 と一気にまくし立てた小十郎は腹いせに佐助に軽く蹴りを入れる。 「いてぇよ!」 「ふん」 「済みませぬ。早とちりをしてしまって」 「別に気にしちゃいねぇよ。で飯はどうする?」 「いえ。矢張りご遠慮いたす。たぶん政宗殿ががっかりされるゆえ」 「そうか。わかった」 「それでは。俺はこの辺りで」 「ああ気をつけて帰れよ」 丁度小十郎の蹴りが脛に入ったようで真剣に痛がっている佐助を余所にふたりは簡単に別れの挨拶を交わした。 小十郎はなんというか久々に気持ちのいいほど裏表のない人物に会ったような気がして幸村に好感を懐いた。 幸村も小十郎にとても良く思ったようで、是非またお会いしたい。などと拳を握りながら言うほどだ。 何だかんだで佐助も政宗も何処か捻くれた所があるのでここまで実直な幸村が小十郎は微笑ましかった。 この素直さがもう少しでも政宗にあれば仕事がさぞや楽かろう。と小十郎は切に思った。 「佐助も片倉殿にあまり迷惑をかけるなよ」 「はいよー。旦那も気ぃつけてね」 「うむ。それでは失礼致す」 ぺこり、と丁寧に一度頭を下げた幸村はそのままもと来た道を戻って行く。 なんだか嵐か何かが通り過ぎて行ったような唐突な出会いだった。 「お前含め、お前の周りは変ってるな」 「・・・それ竜の旦那に言っていい?」 「できれば言ってくれるな」 幸村が走り去る後姿を見ながら小十郎は何だか定時に上がったのにそれ以上にどっと疲れた気がした。 つづく 幸村登場!幸村も人間じゃないです そして私は幸村←伊達の構図が好きらしい 2008.03.15 ブラウザバックでお戻り下さい。